第14話


 居間を抜けた先には上方へと続く大きな階段があり、そこを登っていた途中のことだった。


 それまでイライラしていた様子のトシヤが俺のほうを睨んだかと思うと、胸倉を勢いよく掴んできた。


「おい、新人ハンターのドウミョウだったか。お前、いい加減にしろってんだよ!」


 周りのハンターがなんだなんだと俺たちのほうに好奇の視線を送ってくる。


「いい加減にしろって……?」


「しらばっくれんなよ、ドウミョウ。てめえ。なーんにもしてねえじゃねえか!」


「いや、してるが……」


 トシヤの余りの剣幕を前にして俺は思わずそう答えたが、確かに周りからは何もしてないように見えてもおかしくない。他のハンターたちも、突然の出来事に驚きつつも俺に対して疑いの眼差しを向けている様子。


「してるだと? おい、みんな、今の聞いたか? こいつがやってるのはただの傍観だ!」


「…………」


 俺に対する底辺ハンターたちのいじめを傍観してたやつがよく言う。


「お、おい、トシヤ。やめろって」


 ヒデキさんが俺とトシヤの間に入ってくる。


「ヒデキ、邪魔をするな! こいつが何もしてないのはあんたも散々見てるんだろう⁉ ここまで来て、緊張の余りビビってるからなんもできませんで許されるかよ!」


「トシヤ、落ち着け。ここがどこなのか忘れたのか? Eランクダンジョンじゃない。おそらくAランクかそれ以上のダンジョンなんだぞ。味方同士で争ってる場合じゃないだろう!」


「ハッ、味方の裏切りもあるのにバカを言うな! それになあ、こいつは味方なんかじゃねえ。昔からよ、敵よりも悪意のない泥棒や、こいつみたいな無能な味方ほど厄介なもんはねえっていうだろ!」


 俺に対して激しい怒りをぶつけてくるトシヤ。この背景には、リーダーの自分じゃなくて一つ下のランクのヒデキが持ち上げられてることへの不満もありそうだ。


 『他人の過ちを大袈裟に取り上げることにより、イカサマ師は自分の過ちを見えなくしてしまう』という釈迦の有名な言葉があるが、まさに他責的思考のトシヤのためにあるような文言だ。


 それでも、トシヤの必死の訴えが届いたのか、俺に対する周りからの視線はますます厳しいものに変わっていくのがわかった。自分のミスを棚に上げるというやつの作戦は見事に成功したわけだ。


「トシヤ。俺が何もやってないというのは、お前の一方的な主張にすぎない」


「ドウミョウウゥッ! お前なぁ、ふざけてる場合かよ。俺たちは命を懸けて戦ってるんだぞ!」


「……だから、俺も戦っている。お前には見えないだけだ」


「はあぁああ……⁉ だからよおおぉっ、お前が戦ってるっていう、その証拠はあんのかよって言ってんだよ、このダボがっ!」


 トシヤは俺の言葉にさらに苛立ちを募らせた様子だったが、ヒデキがそれを必死に押さえつけていた。


「トシヤ、だから落ち着けって。今はお互いに協力する時だろ!」


「うるせえってんだよ、たかがC級の分際でよ!」


「お、お前……」


「あ、わ、わりい。けど、俺は許せねえんだよ、そいつがよ!」


「…………」


 仕方ない。これ以上隠し続けたらヒデキさんまで敵に回しそうだ。というわけで俺は正直に告白することにした。


「まあ、わからないのも無理はない。俺はユニークタイプだからな」


「は……? ユニークタイプ、だと?」


 わかっていたことだが、トシヤを中心にハンターたちは唖然とした顔をしており、誰一人信じてないのが丸わかりだった。まあそりゃそうだろう。ユニークタイプのハンターなんて希少すぎて都市伝説扱いされてるんだから。


「誰でも嘘とわかるような出鱈目言いやがって……。おい、みんなこれでわかっただろ。こいつは偽ハンターの一般人だ。どうやって紛れ込んだんだ⁉」


「あ、あいつ、マジで一般人なのか?」


「つーか、トシヤが言うようにユニークタイプなんているわけねえし、そうに違いねえって」


「じゃあ、一般人が今まで高みの見物してたっていうのかよ……」


「しかも、一丁前にハンター気取りだ。ふざけやがって!」


「…………」


 周囲のハンターたちも次第に敵意を抱き始めるのが見て取れる。これは非常に危険な状況だ。


 仕方ない。俺は自分がハンターであることを証明するべく、ポケットから免許を取り出して名前を伏せた状態で見せることにした。


「これが俺のハンター免許だ。名前は伏せているが、確かに正規のハンターだ」


「「「「「なっ……⁉」」」」」


 効果覿面とはまさにこのこと。俺の免許を見るやいなや、ハンターたちは驚いた顔を見合わせていた。一人、苛立った顔のトシヤを除いて。


「……お、俺はこんなの認めねえぞぉ……。おいドウミョウ。じゃあ、どんな能力だっていうんだよ⁉  言ってみろ!  言えないだろ!  どうやって偽造した⁉」


「偽物の免許だったら、センサーで判定される。それとも、協会が不正をやってるとでも言いたいのか?」


「ぐっ……」


 俺の言葉にトシヤは黙り込んだ。周囲のハンターたちはもう、俺を疑っている感じではなく、むしろトシヤのほうを見てそのしつこさに呆れている様子だった。


「俺の能力を少しだけ教えてやる。敵の体力を徐々に減らせる能力だ。これで充分か?」


「……そ、そんな能力なんてよぉ、見たことも聞いたこともねえぞぉ……」


 トシヤが苛立ちを隠せずに脊髄反射で返してきたが、その声には張りがなく自信をまったく感じさせないものだった。


「トシヤ、これでわかったか。これ以上は大人げないぞ。さあ、お前たち、そろそろ行くぞ!」


「「「「「了解!」」」」」


 この一連の流れにより、リーダーの立場がトシヤからヒデキさんへと移行したのは一目瞭然だった。トシヤは恨めしそうにしていて本当にいい気味だった。雨降って地固まるとは、まさにこのことだな。


 だが、抜け目のないやつのことだ。この先、何かよからぬことを企てる可能性もあるので油断は禁物だろう。そうなったら、【神の目】で存在事消してやるつもりだ。


 俺のハンターとしての本当の戦いは、これから本格化するといっても過言ではないだろう……。

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俺だけミニゲームでチート能力が手に入る件 名無し @nanasi774

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