第13話


「お、おい、あれ見ろっ!」


「なんかうじゃうじゃいるぞ……!」


「気をつけろおおぉっ!」


「…………」


 あれは……。


「「「「「ウゴォ……」」」」」」


 トシヤが合流してから俺たちは回廊をしばし歩き、その奥にあった居間へと足を踏み入れたのだが、その途端エプロンをつけた元使用人っぽいゾンビの群れが押し寄せてきた。その手にはホウキやらトレイやらが握られているのがわかる。


【神の目】で確認したところ、『デスサーヴァント』っていうBランクのモンスターだ。体力がSってことでそれが特に高いのが特徴的だったが、次に高いのが腕力のBで、それ以外の能力はさほどでもなかった。


 何よりも、移動速度が遅いのでこれなら【神の目】の格好のターゲットだ。ただ、これを使うタイミングは考慮したい。何故かっていったら、今仕切っているのは性悪なだから。


「お、お前ら、落ち着け、止まれ! よーし、俺が今から魔法を唱えてあいつらを倒す。だからそれまで耐えろ。おい、お前だ。タンク、敵の攻撃を食い止めろ!」


「……タンクタンクって。俺にも一応、ヒロキって名前があるんだけど」


「んなこたぁ、どうでもいいから早く行けってんだよ。こんの、のろまのタンク野郎がっ!」


「「「「「そうだそうだ!」」」」」


「……い、行けばいいんだろ、行けば……」


 トシヤや、その取り巻きの底辺ハンターの怒号に押される格好で、ヒロキという太った男が渋々といった様子で前に出て行く。10人のハンターがいる中で彼は唯一のタンクタイプだからもう少し大事に扱うべきだろうに。


「おら行けっ! 燃やし尽くせっ!」


 ヒロキが死骸の群れをストップさせたのち、トシヤが黒い杖を振り上げ、いかにも強力な魔法を次々とゾンビたちに叩き込む。認めたくはないが、そこはさすがB級ハンターといったところか。


「「「「「グゴォォォッ……!」」」」」


 巨大な炎や氷の塊がモンスターに直撃し、爆発音と共に煙が立ち込める。アンデッドの群れはその場に倒れ込んで動かなくなったように見えた。


「ふっ、これで終わりだな……」


 トシヤがキザっぽい仕草で髪を掻き分けると、杖を肩に担いで決めポーズを取る。


「さすがトシヤさん!」


「やっぱりB級ハンターは違うな!」


「トシヤさん、素敵っ!」


 周囲のハンターたちも歓声を上げ、トシヤを褒めたたえる。しかし、次の瞬間、煙の中から不穏な影とともに呻き声が聞こえてきた。やはり生きていたか。


「おい、見ろ。まだ生きてるかもしれんぞ!」


「気をつけろ!」


「あ……? んなわけねーだろ!」


 トシヤが怪訝そうな顔で否定するが、煙が徐々に薄くなってきてモンスターが生きてるのは明らかとなった。倒されたはずのゾンビたちが何事もなかったかのようにゆっくりと立ち上がり、再び攻撃態勢を取っていたのだ。


「な、なんだと……⁉」


 先んじて魔石を拾いに行こうとしたのか、前に出かかっていたトシヤが後ずさりする。


「「「「「ウゴオオォォッ……」」」」」


「だ、ダメだ。これ以上は痛くて耐えられねえ!」


「ちっ、使えねえタンク野郎がっ!」


 タンク役のヒロキが額から血を流しながら後退してきて、それと入れ替わるようにしてヒデキが前に出る。


「仕方ない、ヒロキ。タンク役は俺に任せてくれ」


「あ、ありがてえ、ヒデキさん……」


「おい、ヒデキ、お前はタンクじゃなくてアタッカーだろ。そいつに任せとけ! 痛みに弱くて甘えてるだけだ!」


「いや、トシヤ。そうは言うがこれ以上タンク役を失うわけにもいかん。ユウカ、ミキ、タカヒサ、ヒール役はしばらくヒロキを回復してやっててくれ。その間タンク役は俺がやる! 」


「「「了解っ!」」」


 ヒデキがそう発言して勇敢に立ち向かっていくが、ゾンビたちは異様にしぶとくて斬られても斬られても起き上がってきた。それだけじゃなく、後ろから複数のマジシャンや弓手のアタッカーから攻撃されてるにもかかわらずだ。さすが体力Sなだけある。


 それと、あのモンスターは腕力もかなりあるのでこのままにしてはおけない。トシヤの手柄になるのは嫌だが、ヒデキならなんの問題ない。


 俺はゾンビたちを丸ごと視界に入れ、【神の目】の力を解放する。


 数え始めてからちょうど十秒後、やつらは完全に消滅した。Aランクの赤い小魔石が幾つか転がっている。Aランクということで、小魔石であっても一個50万はするものだと考えると、危険を承知でもダンジョンに飛び込む価値は大いにあると思えた。


「よぉおおしっ! 遂にやった、やったぞおおおっ!」


 ヒデキがそれを拾い上げると、俺たちに向かってガッツポーズする。今回は手応えもあったはずだし、自分が倒したと思うだろう。


「さすが、ヒデキさんだ!」


「本当に頼りになるよ!」


「ヒデキさん、凄い!」


 誰の犠牲も出さない完璧な勝利。普通なら喜ばしい状況だといえるんだが、一人だけ恨めしそうにヒデキのほうを見やる男がいた。B級ハンターのトシヤだ。


「……なんなんだよ、クソッ。単にゾンビどもは俺の魔法を食らって弱ってただけか、それか物理に弱いってだけだろうが!」


 まさにトシヤらしい、大人げない見苦しい発言といえるだろう。その言葉からまもなく、周りのハンターから失笑が漏れるのだった。

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