夏は終われど、思いは終わらず、恋は愛へと
Shota
あなたを愛しています
「きれいな花火だね、透」
「そうだな」
俺は、高2の夏休みの最終日に彼女と学校の近くの川辺で開催されている花火大会に来ていた。
向日葵の花柄の浴衣に包まれた姿は長く艷やかな黒髪ともあいあってとても可愛らしく見えるのだろう。
「覚えてる?透。私が透に告白したときのことを」
「あぁ、覚えてるよ」
1学期最後の日に俺は彼女に手紙で放課後に体育館裏に呼び出され、そして告白された。
そして、彼女の告白を承諾した。そして、それから夏休みの間に何度か一緒に出かけるようになった。
「透に告白したとき私、断られるんじゃないかってすっごく不安だったんだから」
「そうか」
「だからね、こうやって透と付き合うことができて私、とっても幸せなの」
「良かったな」
「うん!」
彼女が微笑むのと同時にニッコリマークの花火が上がった。まるで彼女の喜んでいる気持ちを表しているようだった。
「て、話聞いてる?」
「聞いてる、聞いてる」
「もぅ!お腹空いてきたし何か食べない?」
「そうだな」
会話にも疲れたし、特に断る理由もなかったので賛成した。
「でしょ、私、透のことお見通しなんだから」
それなら、俺は会話はあまり得意ではないからできるだけ静かにしていてほしいものだ。
暗い川辺から少し離れたところにある、屋台が密集している場所に辿り着いた。
そこには大量の群衆が集まっており、この群衆の中に足を踏み入れるくらいならあそこにいた方がマシだったなと後悔した。
「早く行かないと全部売り切れちゃうよ」
「そうだな」
俺は彼女に手を引かれ雑踏の中へと足を踏み入れる。
手を握られると自分のパーソナルスペースを侵されたことに対する嫌悪感が湧き上がってくる。
屋台を見ながら歩いていると一つの屋台が目に止まった。
それはいつも行っている定食屋の人が出店している店でしかもそこで提供していたのは俺がいつもそこで食べていた焼きそばだった。
俺の視線に気づいたのだろうか、彼女は屋台の方へと走っていった。
そして、戻ってきた彼女は俺にチョコバナナを手渡した。よく見ると隣の屋台ではチョコバナナが売っていた。どうやら俺がチョコバナナの屋台を見ていたのだと勘違いしたらしい。
断るのも面倒なため仕方なく彼女にお礼を言い、手にしたチョコバナナを口に含んだ。
バナナのネチョネチョした食感とチョコの甘ったるさが口いっぱいに広がり吐き気が込み上げてきたが、嫌な素振りを見せずに飲み込んだ。
不味いと言うのも失礼だと思い、美味しかったとだけ彼女に伝えると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
チョコバナナを食べ終わっても花火は上がっていた。もうしばらく続きそうであるから元いた川辺に戻って静かに花火を見るのも悪くないだろう。
「ねぇ見て透、あそこでライブやってるよ、行ってみよう」
川辺に戻ろうと思ってたのに、なんで騒がしいとこに行かなくちゃならないんだ。
渋々ついていくが、そろそろ身勝手にも付き合いきれなくなってきた。
ライブはとある有名なロックミュージシャンによるものだった。
クラシックが好きなのにもかかわらず、騒音を撒き散らすロックのリズムが更にイライラを加速させていった。
そのライブが終わる頃にはもう花火は終わってしまっていた。
「ねぇ透、まだ時間あるからさ、これからカラオケにでも行かない?」
やっと祭りも終わり、ようやく解散できてゆっくりできると思った矢先にと思った。
「いや、疲れたしもう帰りたいかな」
「そう言わずに一緒に行こうよ、透」
「いや、でも・・・」
「おねがい、おねがい、おねがい」
「いい加減にしろよ」
肘を引っ張りながら懇願してくる彼女に対して冷たく言い放った。
「もう、うんざりしてるんだよ。まず、俺はこんな祭りに来たいだなんて一度も言ってないし、お前がしつこく電話してきたから仕方なく来たけど、さすがにそれ以上はつきあいきれねぇよ」
「・・・」
「まず、なんだよ今日は。俺は話すのが苦手だって知ってるはずなのにずっと話しかけて、人混みが苦手だって知ってるはずなのにあえて人混みの方に誘ったり、俺がバナナとかチョコが苦手だってのに買ってきて、静かなのが好きなのにロックのライブをみせられたり。この夏休み、お前と会うたびにずっと感じてたけど、今日は特にだ。だからお前とは合わないんだよ。だからさ・・・もう別れよう、来愛」
そう言うと来愛は空を仰ぎ見た。手を見ると拳を握りしめて小刻みに震えていた。
そっとしておくのが正解だろう、と思い来愛から顔を背けこの場から立ち去ろうとする。
「やっと」
すると、後ろから彼女の声が聞こえてきた。
「やっと名前を読んでくれたね、透」
その言葉に弾かれるようにして振り返ると彼女は嬉しそうに微笑んでいた。
それは今まで見た来愛のどんな笑顔よりも嬉しそうだった。
「なんで笑ってるんだよ、お前は今振られたんだぞ」
意味がわからない、理解できない。なぜ、振られたのに笑っているのか理解ができない。
「もしかして、遊びだったのか」
「ううん、違うよ。私は透を愛してるよ」
俺の答えを真っ向から否定してくる。じゃあなんでそんなに平然としてるんだよ。
「私は透が好きなの。だけど透は私のことを全然見てくれない。いつもどこか別のものを見てる。私を見てほしい、私だけを見てほしい。私だけを、私だけをって。付き合ってからはそれがどんどんどんどん強くなっていったの。透の中を私だけにしたい。独占したいの。それが叶うなら私はあなたにとってどんな存在になってもいい。透が私のことを思ってくれるならそれが愛でも嫉妬でも憎悪でも殺意でもなんでもいい。そう思ってきたの。だから今日は透が嫌がることを徹底的にして私の方に振り向かせようとした。でも許されるでしょ。私達は恋人同士なんだから。それでも無理だったらまた別のことを試してた。何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも。でも今日、透は私の方を振り向いてくれた。でも足りない。もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと、私だけを見て、透。私には透しかいないの、透だけなの。私がこんなことを思えるのは。私は透が好きなの、ううん、愛してるの」
僕は勘違いしていた。来愛の僕に対する感情は純粋な好意であったと、そう思っていた。
でも違っていた・・・
「それは、愛なんかじゃない」
それは、憎悪だ。自分を見てくれない、そんな無責任な俺に対する憎悪だ。俺は確かに来愛に対して俺は最低だ。思い返してみてもよく分かる。自分は無責任で浅はかな自己中野郎だ。そんな俺に対して憎悪を抱くのは仕方ない。
「ううん、これは愛だよ、透。私、透に名前で呼ばれて、やっとちゃんと私を私を見てくれて今、今までで一番幸せだよ」
「いいや、それは憎悪だ、愛なんてとっくに過ぎてる」
「透がそう言うなら確かにそうなのかもね。だったら、私の憎悪も私にとっては愛なんだよ、きっと。だから透、私の愛を、私の憎悪を受け止めて」
イかれてる。なぜ、そんな風に俺を見ることができるのか理解できなかった。憎悪をまとめて愛といってしまう来愛が恐ろしくて仕方なかった。すぐにこの場から逃げ出してしまいたかった。けれど、俺は来愛にしたことを償わなくてはならない。だから・・・
「分かった」
俺にはそれを受け入れる義務がある。
こうして俺達、私達の夏は終わった。
次の日も、俺達の恋人関係は続行された。
私は、透に振り向いてもらえるようにあれからずっと頑張った。そしたら透が私のことをどんどん思ってくれるようになった。
あれから、来愛の行動は日に日にエスカレートしていき、クラスを巻き込んだいじめへと発展した。けれど、来愛の思いに報いなかったことに対するバツだと、そう思い続けたが、日に日に来愛への憤りは増していった。
私のことをもっと、もっと見てくれるように透を私の家に呼んでお泊り会をしたり、一緒に寒中水泳とかいっぱいできた。その度に、透の中が私でいっぱいになっていくように感じる。嬉しい、こんな嬉しいことがあっていいのかな?でも、まだもっと、もっともっともっと私だけを見て、透。
いじめは更にエスカレートしていき、来愛の家に強引に連れて行かれ3日間、来愛に手足を縛られ、猿轡を噛まされ監禁された。時折、来愛の笑い声が聞こえ、その度、来愛に対して恐怖を覚えさせられた。そして、外に出られたと思ったら海に出て、来愛溺れ殺されそうになった。目がチカチカしてきて、あぁ自分は死ぬのかと諦めそうになった。だけど、それ以上に湧き上がったのは彼女に対する殺意だった。ここまでするのは理不尽だ。不条理だ。なぜ、自分はこんな目に合わなくちゃならない。許したくない、許せない、コロス、殺してやる、どんな手段を使っても、どこにいっても絶対コロス、殺してやる、殺してやる。殺して地獄に落としてやる。
そして、その時偶然通りすがった警官が来愛を殺人未遂で逮捕したことによって、俺は九死に一生を得た。
それから、俺は違う高校へと転校し無事大学にも合格し、新しい彼女もできそれなりに良好な関係を築いていた。
けれど、彼女、来愛に対しての感情には決して勝ることはなかった。今なら彼女が憎悪もまとめて愛だといっていた意味がようやく分かった気がする。
そう、僕は、私は君を、愛している。
夏は終われど、思いは終わらず、恋は愛へと Shota @syouki0905
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