第2話 自分勝手な理由

右灯うとう左夜さよがグリーン・ド・エッジを出てから早1日が経つ。

 2人はまだエコーの森をさ迷っていた。


「いや~ぁ。失敗したなぁ。

 まさか王都おうとの場所を聞くの忘れるなんてなぁ。」


そう右灯が明るい声で左夜に話しかける。


「まぁいいじゃない。

 せっかくの新婚旅行なんだもん。

2人で楽しく行きましょうよ。」


そう左夜が言葉を返した時、2人の耳に騒がしい声が聞こえる。


2人はその声の方へ足を進める。


すると1匹の大きなとら魔獣まじゅうが村を襲っていた。


「くそが。オレ達の魔術では全然相手にならねぇ。」


そう虎の魔獣と戦っている男達の中の1人が弱音を口にする。


「文句ばっか言ってるなぁ!!

 オレ達が何とかしないと、この村はあいつにほろぼされるんだぞ!!そしたら、村の人達は全員死ぬんだぞ!!」


そう違う男が叫ぶ。


そんな男の背後に虎の魔獣が歯を見せて立つ。


『危ない!!』


そう男達は叫ぶ。


「本日の予報です。虎の皆様は真上にご注意ください。傘が降ってくるでしょう。」


そうふざけた予報を言いながら右灯は傘で虎の魔獣を地面に叩きつける。


そんな状況に虎の魔獣と戦っていた男達は口を開けて見つめる事しかできなかった。



「いや~ぁ。本当にわが村を救っていただきありがとうございます。」


そう村の村長である老人が右灯と左夜に頭を下げる。


そんな2人の前には料理が並べられている。


「気にすんな。たまたま通りかかっただけだ。」


そう答えながら右灯は出された料理を口にする。


「おい。魔界の料理、意外に美味いぞ。」


そう右灯は隣に座っている左夜に声をかける。


「あら。本当だわ。」


そう左夜も驚く。


「それより、見たこともない武器ですが、他国たこくのお人ですか?」


そう村長が尋ねる。


「嫌、他国ってか他世界たせかいの人間だな。」


そう右灯が答えると村長は驚いた顔を見せる。


「他世界ですか?」


そう村長が尋ねると左夜が簡単に説明する。


「はい。ウチ等はこの魔界とは違う地球と言う世界から来ました。新婚旅行で。」


そう左夜は微笑む。


「それはそれは、大変な時に来ましたね。」


そう村長は驚きが消えていない声で言う。


「ねぇねぇ。兄ちゃん。この変な武器で虎の魔獣を倒したの?」


そう村の男の子が右灯に尋ねる。


「ん?あぁ、そうだよ。」


そう右灯は何かの肉の丸焼きを食べながら答える。


「へぇ。弱そうなのに凄いんだなぁ。」


そう男の子は傘に興味津々である。


「触ってみる?」


そう聞きながら左夜は自分の傘を男の子に差し出す。


「うん。」


そう嬉しそうに言うと男の子は傘を手に取る。


「それで、お二人はなぜこの村に?」


そう村長が尋ねる。


「さっきも言ったがこの村はたまたま通りかかっただけなんだ。

 オレ達が本当に行きたい場所は王都のノクシアってとこ。」


そう右灯が言った瞬間。村長は大きく驚く。


「失礼ですが、今王都がどいう状況かは知っているのですか?」


そう村長が尋ねる。


「詳しくは知らねぇけど、何か滅ぼされて魔王みたいな奴が支配してるんだろ?」


そう右灯がオリバーから聞いた話をうっすらと思い出しながら答える。


「・・・それを知っていてなぜ行くのですか?」


そう村長はさらに尋ねる。


「ある村の女の子の兄ちゃんがその王都に行っちまったらしいんだよ。

 だから、その兄ちゃんを助けにな。

まぁ、ついでにその魔王さんを倒すってのもアリかなとは思ってるよ。」


そうあっさりとした声で右灯は答える。


「・・・そんな理由で…。」


そう信じられないと言った声で村長は呟く。


「それでよ村長さん。

 1つ聞いてもいいか?」


「なんでしょう?」


そう村長は聞き返す。


「王都ってどこにあるの?」


その右灯のバカみたいな質問に村長の動きは一瞬止まる。


「それを知らずに旅をしているのですか?」


そう村長に聞かれて右灯は真顔で頷く。


「…少し待っててください。

 この国の地図を持ってきますので。」


そう言うと村長は部屋を出る。



「これがこの国の地図です。

 そして、ここが王都ノクシアです。

歩きですとこの村から5日ほどはかかります。」


そう村長は説明する。


「この地図、貰ってもいいですか?」


そう左夜が尋ねる。


「えぇいいですよ。ですが本当に行かれるのですか?こんな事を言ってしまってはあれですが、あなた達はこの世界とは違う世界の人達なのでしょう?だったら、この世界の1つの国の小さな村の女の子の兄がどうなろうと関係のない事なのではないんですか?」


そう村長が尋ねると右灯と左夜は1度お互いを見合う。


「…ウチ等は自分達の世界で地球最強夫婦と呼ばれています。つまり、それだけの力がウチ等にはあるのです。

 なのに苦しんでる人達を…子供達を見捨てて楽しく新婚旅行なんて気持ちにはなれません。」


そう左夜は自分の傘を楽しそうに振り回している先ほどの男の子を見つめながら答える。


「まぁ、簡単な話が自分達のためだよ。

 自分達が気持ちよく新婚旅行するためのな。結構、自分勝手な理由だろ?」


そう右灯が微笑みながら言葉を追加する。


「いえ。とても素敵な理由だと思いますよ。」


そう村長も微笑みを返す。



次の日、右灯と左夜はたくさんの食料を貰って村を出る。


そんな2人の前に昨日の虎の魔獣が現れる。


「なんだ?なんだ?まだやるのか?」


そう言って右灯は背中から傘を取り出す。


そんな右灯の前で虎の魔獣はお腹をすかせて倒れる。


2人は村の人達に貰った食料を分けてあげた。


すると虎の魔獣は嬉しそうに「ガウ~」と声をげる。


「貰った食料の半分ぐらい食いやがった。まぁいいけど。」


そう右灯は少し不機嫌そうな声で言う。


そんな右灯の前で虎の魔獣はこしを落とす。


「なんだ?」


そう右灯は首を傾げる。


「もしかしたら、ウチ等と一緒にきたいんじゃない?」


そう左夜が言う。


「そうなのか?」


そう右灯が聞くと虎の魔獣は「ガウ~」と大きく吠える。


「いいね。旅の仲間が増えるこの感じ、まるでRPGだ。よし。お前の名前は今から“トラ助”だ。」


そう右灯が命名めいめいする。


「ガウ~。」


そうトラ助は嬉しそうに声を挙げる。


そして2人はトラ助の大きな背中に乗って王都ノクシアを目指す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 日・土 18:08 予定は変更される可能性があります

【地球最強夫婦】新婚旅行で魔界を救う 若福清 @7205

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ