第3話 遭遇③

 シュトシュノは東方領の町、トハーンの兵士である。


 生まれは大陸西部だが、若い頃から傭兵業をしながら各地を転々とし、様々な縁からこの地に定住するに至った。竜人ながら腕っぷしを買われて兵士として従事し始めてからは、アーラルク大森林から湧き出てくる大型魔獣の討伐に幾度となく参加している。


 今回の任務は、郊外の村を襲撃し一夜にして焼け野原へと変えたワイバーンの討伐だった。


 いつもと違うのは、森へ入っての作戦だということである。

 通常は町へ近付いた魔獣を迎え撃つのだが、ワイバーンの危険性を鑑みて襲い来るのを待つのは遅いと近隣貴族と一部の上官達によって強行された。


 あまりに過酷な作戦であることから参加は兵士の中からの有志だったが、シュトシュノは討伐隊に自ら志願した。


 所詮は自分は余所者の身だ。

 信頼を得るには、これぐらい積極的に貢献しないと。幸い、生まれ持った頑丈さには自信がある。


 だが、甘かった。


 アーラルク大森林に足を踏み入れてすぐ、目標に遭遇する前に森を闊歩する大型魔獣に逆に囲まれて混戦になった。


 部隊は散り散りになり、生存者がどれほどいるかも分からない。


 シュトシュノ自身もなんとか逃げ延びたが、地獄はここからだった。


 息をつく間のない、魔獣からの襲撃。


 魔獣は魔力を取り込んでその身に溜め込む性質があるため、魔力を持つ亜人を好んで食べる。

 隠れていても、漏れ出た魔力を嗅ぎつけてくるようだった。とても町を目指せる状態ではなく、その場その場を凌ぐことで精一杯だった。


 そんな疲労困憊の中で、大魔熊に出くわしたのは不幸としか言いようがない。


 大魔熊は走りも早く、木々を薙ぎ倒しながら追ってくる。うまく木のうろや根の陰を探して潜り込んでも大きな爪で掻き分けてくる。木に登って逃れることも困難だ。


 ここまでか、と死を覚悟した。

 森は魔獣の領域、亜人が踏み込んで良い場所ではなかったのだ。


 それでも使い物にならなくなった槍を構えたのは、一矢報いようと思ったというよりは自身の生存本能ゆえだろう。


 目を一突きすれば諦めて逃げてくれるだろうか、とぼんやり思ったその時、風を鋭く切る音がした。


 矢が放たれた音だと気付いた時には、絶叫した大魔熊の振り回した腕に吹っ飛ばされていた。

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