クソなエンドにさよならを!
mayu
第1話 俺が信じた結末なんかじゃない!
「は?」
思わず声が漏れた。
「なんだよこれ、、ふざけてるのかよ」
借間の畳に寝そべりながら読んでいた週刊漫画雑誌を読む手を思わず止めた。
なぜかって?
今まで、大学受験に失敗し親と決別した挙句、逃げるように1人バイトでその日暮しとも言えるような貧乏生活を4年間続け碌なことがなかった人生の糧として毎週読んでいた大好きな漫画が伏線をすべてぶん投げ突然完結したからである。
いや、完結自体は良いのである。しかし、あまりにも急であったことに絶望している。
「先週、告知とかできなかったのかよ!」
せめて、覚悟を決める準備段階が欲しかった。
「伏線はどうなるんだよ〜」
力なく呟く。
いかにもな伏線を撒くだけ撒いて何1つも回収せず告白シーンすら見せずに数年後の独身姿の主人公を見せられてみろ。
俺は全てが嫌になった。
「まるで俺の人生じゃんかよ。」
俺の人生にもこの漫画にもハイライトは無かったのだ。
何を漫画の主人公に自己投影してるんだと言われるかもしれないが、あまりにも境遇が似ていたのである。
幼い頃に父が死に母親一人に育てられたことも友達と呼べる存在がいなかったことも。
自分が不幸だと思っていること全てが主人公との共通点であり、それが、励ましにもなっていたのだ。
しかし、結末はバッドエンド。
叫びたい気持ちでいっぱいだった。
力なく畳に寝そべって嘆いているといてもたってもいられなくなってしまった。
気づけば2階建ての古いアパートを飛び出していた。
それから、何分走っただろうか、気づけば近くの土手にたどり着いた。
「あーあ、」
土手の階段に座り込み嘆くようにつぶやいた。
久しぶりに体を動かしたことで疲れてしまいボーッと正面に目をやる。
夕日が西から差し川の水がキラキラと反射している。
何もかもが嫌になった。
人生なんてくだらない。
「ねぇ、もしかして、羽島君?」
そんなことを思っていると声をかけられた。
なぜ名前を知ってるかと思いふり返ると後悔した。
「やっぱりそうだ。ねぇ、覚えてる?私のこと。高校の時、同じクラスだったんだけど。」
覚えてる?忘れるわけがないだろう。
声をかけてきた腰にまである黒く綺麗な髪の色白の女。
あの時から変わっていない。
白鳥 雪
俺の高校時代の片思い相手だ。
「あ、あぁ。覚えてるよ。あれ、だろ白鳥だろ。」
自信なさげに答えることでうろ覚え感を醸し出してやった。
なぜかって、自分だけ色濃く覚えているのが惨めで悔しく思えてしまったからだ。
「羽島君なしにてるの?こんなところで。」
彼女は俺の服装を見つめて言う。
上下グレーのスエットを着た髭面の男がそこにいた。
「あーあ、その。なんていうか。」
言葉を濁す。
「ごめんね。いいよ無理に言わなくても。」
彼女は慌てて言う。
優しいなぁと心でニヤける。
「白鳥は何してるんだよ?」
咄嗟に会話しようと思って言葉が出た。
彼女はきれいに仕立てられたスーツを着ていた。
「私?私は仕事帰り。てか、平日にスーツ着てたら大体そうでしょ。」
「だよな、そうだよな。」
言えるわけない今日が平日だということさえたった今知ったことを。
「で、今は何してるの?」
彼女は悪気なく聞いてくる。
「俺は、、」
何してるんだろうな。
今まで何してきたんだろうか。
自分のうまく行かないことは全て境遇のせいにして逃げてきた俺は。
しばらくの沈黙のあと彼女が言った。
「まぁ、色々あるもんね。」
彼女は腫れ物に触るかのように優しく言う。
気づけば彼女は隣に座っていた。
するとおもむろに彼女が口を開いた。
「まぁ、なんかあったら連絡してよ。私、いま会社やってんだ。人手もほしいし雇ってほしかったりしたら言ってね。」
そう言うと彼女は名刺を差し出して来た。
無職ということは察されたらしい。
じゃあ、またね。と彼女は言うと帰路に戻っていった。
久しぶりに外に出たが悪いものじゃないと思った。
そして、その後、数分たそがれたあと俺も帰路についた。
古いアパートについたあとも彼女のことが頭にあった。
久しぶりにあった彼女は高校時代より可愛くなってしっかり者になっていた。
さっき、渡された名刺をポケットから出す。
そこには、便利屋ハクコクと書かれていた。
その下に電話番号も記載されていた。
ここに電話すれば何かが変わる気がした。
「バッドエンドで終わらせるかよ。」
そうつぶやき気合を入れる。
そして、携帯電話に電話番号を入力する。
電話からはコールが流れる。
そして、彼女声がした。
「はい。便利屋ハクコクです。すいません、本日の営業は終了してしまいまして。」
「白鳥。俺だ羽島海斗だ。」
「あぁ、どうしたの電話してくるの早かったね。まぁ、分かってて電話出てる節はあったんだけどね。」
彼女は、フフっと笑う。
「あのな、白鳥俺、」
そして俺は過ちを犯す。
「お前のこと高校の時からずっと好きだった。」
感情が暴走した。
そして、自分が何を言ったか自覚した瞬間。
「あっ、違う。いや違うわけじゃなくて。あそなんていうか。」
彼女は冷静に言う。
「何があったかは知らないけど、頭冷やして明日事務所に来な。話はそれからね。」
「分かった。ちょっと頭冷やす。」
そして、彼女は電話を切った。
最悪だ、人生最大のやらかしだ。
うめき声を上げながら頭を抱える。
しかし、俺の人生をリスタートするにはこれくらいの破天荒が必要だったのかもしれない。
そうだきっと。
クソなエンドの続きを俺が描けば良い俺の人生を賭けて。
クソなエンドにさよならを! mayu @Mameruri8
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