第8話:影隠の道
エリシアと何とか川から這い出ると、追手に見つからないよう、夜の闇深い森の中を進んでいく。水で塗れていた服が夜の寒さとともに体温を奪っていく。がむしゃらに走り続けていたが、体力が限界を迎え、木の幹に体重を預けるようによりかかる。
これまで運動するのを嫌ってきたツケを払わされたな。体を動かそうにも、筋肉が悲鳴をあげ、もう動かすことができない。
「………リオ様、………ここで、………少し休みましょう。」
エリシアは僕を気遣うように言ってくれたが、彼女も呼吸が乱れ、肩で息をしている。追手の気配を探るも、辺りは静かな夜の闇に包まれており、僕たちの息遣いが聞こえるだけだった。
息を落ち着けた僕たちは、エリシアがつくった小さなたき火で暖をとりながら、一時休むことになった。
先ほどの出来事を思い出す。謎の黒い仮面の男、そして会話にあった”例の物”………
「エリシア、あいつらが話していた例の物って、何のことだと思う?」
「おそらく、王国にある遺産か、またはそれに関連するものなのでしょう。あの盗賊たちは使いっ走りにすぎません。裏には」
「遺跡のことを知る何者かがいるってことだろ。しかもかなり強大な。」
「……はい。奴らはこれまでと同じ行動を繰り返すことはないでしょう。情報収集からやり直しですね………」
この時僕はこの任務が長丁場になることを感じ気を落とした。まさか、あんな形で終結するとは露程も知らず――
♦
朝日が昇り始めた頃、僕たちは拠点にしていた街、クロッサに戻って来ていた。ここはノヴァ地方最大の都市で、多くの街道の起終点になっている。さらに帝国とも距離が近く、多くの人が行き交う、とても賑わいのある街だった。しかし、盗賊の被害が増えていくにつれ、行商の数が減っていったのだ。僕がこの街に来た当初に比べ、露店の数も減り、賑わいがなくなってきているのを感じる。
そんな街の一角にある一室―組織の隠れ家の一つ―で、僕たち二人は大量の資料とにらめっこしていた。
「ふぅ。こんなに大量だと、目が疲れるな……」
そんな小さな呟きが聞こえたのか、エリシアはいつもの微笑んだ顔で言う。
「リオ様、まだ一枚しか読んでいらっしゃりませんよね?」
そういう彼女の声には静けさの中に圧があるようで、体がビクッと震える。
ハイ、その通りです。私は一枚しか読んでいません。なんでかって?
だって面白くないんだも~ん。街道の通行記録とか警備体制とか知ってなんになんのよ?そんなもん延々と見てられっかい!そんなことより魔竜の分類とか、進化系統の話とかしたほうが絶対面白いじゃん!あ~新種が発掘されたりしないかなぁ~
そんなことを考えていると、僕を見るエリシアの微笑みがさらに深くなったような気がした。
「リオ様?」
穏やかに問いかける彼女の視線が冷たい。顔はいつものように微笑んでいるのに……
「いや……でも……僕体力ないし……なにより興味湧かないし………」
「主命官は、興味のあることだけをなさる役職ではありませんよね?」
「ハイ」
正論すぎて何も言えない。僕は仕方なく再び手元の資料に目を移す。
襲撃場所、襲撃された商会名、人的被害、盗まれたものなどのリスト………
見る項目が多すぎる。結構時間がたったと思って時計を見るも、まだ数十分しかたっていない。
それに比べ机の反対側を見るとエリシアが黙々と作業を繰り返しており、読み終えて積み上げられた資料の量は僕の十倍以上はあるように見える。
そんな彼女に(そんなにできるなら、一人でやればいいのに)と内心愚痴をこぼしつつ資料を読み流していると、ある地名に目が留まる。
”アラ古道”
実は、この周辺はかつて帝国と王国との戦があったとされた場所だ。この戦いは珍しくごく一部だが記録が残されており、王国軍がある道を使い帝国軍の背後をついて撃退した、というものだ。その道こそ通称”
確か今は整備されておらず獣道のようになっているというが、どうしてそんな道を使ったのだろうか?
そう思いながらそこでの盗難品のリストを見た僕は、思わず椅子から立ち上がる。
「エリシア、ここを見てみてくれ。」
いきなり立ち上がった僕を驚いた目で見るエリシアに、先ほどの資料を見せる。
「古地図に呪われた壺?などの骨董品………挙句の果てには、密輸品ですか。
後ろ暗いものばかりが盗まれ………!!!」
何かに気づいたように目を見開くエリシア。どうやら気づいたようだな。
この道は後ろ暗いものを運ぶものたちが密かに利用しているようだ。
そしてそれを狙うように盗賊たちの襲撃が相次いでいる。
遺物、またはそれに関連する何かだとしても、普通の人から見れば薄気味悪いものなはず。それを盗賊たちはそれを狙っているに違いない!本命はここだ!
「エリシア、帝国方面に向かう商人の中でこの道を通りそうなやつはいないか!」
「………数時間前、少し怪しげな古物商がそちらの門を出ています。」
手柄を立てるチャンスだ。これでやっと僕が役に立つとみんなに示せる!
何も持たないままで入口へ駆け出す。
「追うぞ!」
「お待ちを。まだ報告をしておらず、」
「これは奴らを捕捉するチャンスだ!急ぐぞ!」
「………はい。」
僕のこれまでにない気迫に、エリシアは悩む様子を見せながらも頷いた。
♦
馬に乗った僕たち―もちろん僕は馬なんて乗れないのでエリシアの後ろに乗せてもらっている―は、件の商人を追うため、街道を駆けていた。商人たちの馬車の列の間を駆け抜けるさまは、人混みの波の間をスルスルと避けていくようだった。
街道を進んでいくと、次第に両脇に木々が生え始め、周りはあっという間にうっそうと生い茂る森になった。
「エリシア、あそこだ!」
僕が指さした先は、もうほとんど道としては認識できないほど草が生い茂った場所だった。僕の記憶する過去の地図の街道の分岐点はここだ。立て看板の支柱のようなものも残っているし、ここに違いない。
エリシアはまだ疑心暗鬼なようだったが、僕の説得で納得したのか、ここからは馬では入れないと、馬を近くにあった木につないだ。そうして、僕たちは二人はうっそうとした森の中へと足を踏み入れた―――
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読んでいただきありがとうございます。やまちゃです。
インフルやらプロットの書き直しやらがありまして、久方ぶりの更新となってしまいました。
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気づいたら裏組織のNo.2になってた~無駄知識の力で頑張ります~ やまちゃ @yama-chann
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