第7話:追跡

ガタゴト揺れる馬車の中、僕はエリシアと隣り合って座っている。

ここはノヴァ地方。最近襲撃が増えている場所だ。

僕たちは今、商隊を装い街道を進んでいた。

商隊の荷台には、商売に使う道具や商品が積まれている。周りに護衛が何人かいるが、彼らも組織の者だ。

僕たちの作戦は盗賊にわざと自分たちを襲わせ、逃げたふりをして彼らの後を追跡する、というものだ。


「準備は大丈夫か?」


僕が尋ねると、エリシアは静かに頷いた。


「はい、すべて順調です。もし襲撃された場合、私たちが最優先で離脱する形になります。」


そう言う彼女に不安の色は見えなかった。彼女がこの計画に自信を持っている証拠だろう。


「襲撃はすぐに来るのか?」


「分かりません。でも、ここは既に危険地帯です。十分警戒を。」


馬車に緊張感が漂った。道を進んでいくと、道端に木々が増え、道が少しずつ狭くなっていく。襲われやすい地点へと近づいている証拠だ。


「すぐに離脱できるように、準備しておいて。」


僕が静かに言うと、エリシアは再び頷く。


「大丈夫です。離脱後は予定通り、盗賊団を追います。」


その言葉に僕は小さく息づく。緊張感で胸が高鳴る。


草が揺れる音がした。すると突如、草陰から盗賊が飛び出してきた。彼らは素早く馬車を取り囲み、武器を向け威圧的に迫ってきた。


「金と荷物を置いていけ!」


一人が大きな声で叫ぶ。


「予想通りか。」


護衛役の仲間が声を出し盗賊たちの気を引いてくれている。

エリシアが静かに馬車の扉を開ける。


「準備はできでいます。」


僕は深呼吸し、覚悟を決める。ここからは行動次第で、命を失うことになるかもしれない。


「よし、行くぞ。」


僕たちは馬車から出ると、素早く物陰に滑り込む。

盗賊たちはそのまま荷物を漁り始めたので、気づかれることはなかった。

残っていた仲間も、逃げるふりをして無事に離脱できたようだな。


盗賊たちが漁り終わったようだ。しかし、嬉しそうな表情はしていなかった。僕たちが運んできたものの中には、高値が付く高級品も多かったはずなのに………

やはり、何かを探している可能性が高いな。


僕とエリシアは盗賊団の後をつける。音を立てずに、慎重に。後ろからその動きに合わせるようにして、彼らの後をつけていく。


山道を進んだ先にあったのは、古い小さな小屋だった。

彼らを追っているうちに、すっかり日は落ち、辺りは闇に包まれている。


その小屋の中には、中に誰かがいるのか、弱い明りが灯っていた。盗賊たちが小屋の中に入っていく。

僕たちも気づかれないよう、静かに小屋に近づくと、中をのぞく。

そこにいたのは、黒いローブに黒い仮面をした人物。低い声が暗闇に響く。


「それで、は?」


「まだ見つかりませんで、本当にあるんですかね?」


「私を疑っていると?」


仮面の男が威圧するように言い放つ。

こちらまで気圧されてしまいそうなほどだ。


「私の存在は絶対に漏らすな。にもご迷惑をおかけしてしまう。」


………やはりこの裏には何か隠されているに違いない。

小屋の中でのやり取りを聞いているうちに、ふと仮面の男が顔を向け、何かに気づいたような気配を感じ取る。


「………誰かいるな?」


その声に急ぎ身を隠すため移動しようとする。しかし、小屋を飛び出てきた盗賊に気配を察知されてしまったようだ。


「あそこだ!殺せぇ!!」


盗賊から逃げるように、エリシアと森の中を駆け回る。しかし、彼らはこの辺りをナワバリにしているのか、身を隠してもすぐに見つかってしまい、追跡を逃れられない。

逃げ回っていると、高い崖に追い詰められてしまったようだ。周囲から人の気配がする。見つかるのも時間の問題だろう。


「リオ様、この崖の下には幸いにも川が流れています。飛び降りましょう。それしか選択肢はありません。」


エリシアが静かな声で言う。いつも微笑んでいる彼女も、緊迫感からか、硬い表情をしている。

こんな高い崖を飛び降りるなんて………恐怖から足がすくんで動けなくなる。

後ろから人の気配が近づいてくる気がする。心臓の鼓動が高まっていく中、僕は覚悟を決め、エリシアと共に崖の下へと飛び込んでいった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る