適性検査・近接
「これより、適性検査を行います!」
眼鏡をかけたギルドスタッフが声を張り上げてそう言った。
彼の手には紙が握られており、これから語る内容が記されていると思われる。
スタッフの前にはフェルズを含め4人立っている。一人は緊張気味で、一人は退屈そうに、最後の一人は真面な様子で両手を揃え行儀の良い様子で話を聞く姿勢を取っている。フェルズはというと、待ち侘びた様子で次の言葉を待っている。
スタッフが眼鏡の位置を調整すると、紙を両手で持ちながら声を発した。
「ではまずこの検査の概要を説明します。この検査では皆様の能力をデータ化し、適性外のクエストを受け死亡してしまう等の不慮の事故を防ぐために行います。」
スタッフはそう言うと一度息を入れ、次にこう言った。
「検査は大きく二つに分けられます。最初に行うのは近接能力の検査、そして魔力検査です。近接検査ではこちらで用意したゴーレムと戦ってもらいます。」
彼がそう言った後、フェルズたちは地響きのような振動を感じた。後ろを振り返ると、検査会場にある広場に黄土色の巨人が立っていた。巨人は3m程の身長があり、大柄な男性を岩で固めたような体形をしている。
「このゴーレムにはパンチやキック、防御など簡単なシステムしか設けていません。この検査では近接能力を測るので、もし魔法を習得している方でも身体強化で戦ってもらいます。では順番に番号を呼びますので、自分の番号が呼ばれましたらゴーレムの前に立ってください。」
スタッフがそう言うと、早速1番の方、前へと言う。緊張気味で立っていた緑髪の少女がはいと答え、ゴーレムの前に立つ。
「このゴーレムは頭が破壊されたり、生物であれば絶命する程のダメージを受けたら停止するようにプログラムされています。説明は以上です。準備は宜しいですか?」
「は、はい!」
「では始めます!」
スタッフの言葉を合図にゴーレムが起動する。命を得たかのように下げていた頭を起こし、唸り声のように岩が擦れて音を出す。
ゴーレムが目の前にいた少女に右拳を振り下ろす。少女はそれを横に飛んで避けると、佩帯していた短剣を抜き逆手で持つ、そしてゴーレムの首の部分目掛けて飛び掛かった。強化された身体能力を以って突き刺さった短剣をゴーレムは気にも留めず腕を横に振り払う。それを後ろに避けた少女は、追撃の左拳を避けると、ゴーレムの首に刺さった短剣の柄に蹴りを放った。深く食い込んだ短剣によってゴーレムの首は破壊、ゴーレムは停止した。
「お見事です。では、2番の方どうぞ」
呼ばれて前へ来た気怠げな赤髪の青年はゴーレムの拳を少ない動作で避け左足を蹴り壊す、反撃の拳も容易に避けると右足を破壊すると下がってきた頭を踵落としで粉砕した。
次に呼ばれた青髪の少女はというと、ゴーレムの攻撃を避ける度に頭を直剣をぶつけ、それが5度目にもなった頃に、脆くなったゴーレムの頭を剣が打ち据えると、ゴーレムの頭が砕け散った。
「では最後に4番の方、お願いします」
「はいっ!」
呼ばれたフェルズは気合十分と言った感じで返事をした。すぐにゴーレムの前に立つと、ゴーレムは起動、右の拳を突き出してきた。フェルズはそれを避け――ずに真っ向から受け止めた。まるで岩同士が衝突したような音があたりに響く。
「!ほう…」
スタッフが眼鏡の奥で目を細める。ゴーレムは壊れやすいとはいえ土塊でできており、繰り出す拳の威力も決して低くない。その拳を探検者の卵が避けたり弾いたりするのではなく真っ向から受けて堪えた様子を見せない。それは異例のことであった。
フェルズは受け止めたゴーレムの腕を左脇に挟んで固定し、右腕を大きく引いた。
ゴーレムは自由な右腕でパンチを繰り返すが、フェルズは歯牙にもかけない。
「どっせい!!」
フェルズが放った拳はゴーレムの顎に当たる部分に直撃、バゴンという音を立てて砕け散った。
「いよっし!見たか!」
フェルズが勢いよく腕を掲げる。
得意げな様子を見せるフェルズと驚いた表情を浮かべる周囲の人達。
「近接検査はこれで終了です。次に魔力検査を行います。」
スタッフは少しの騒めきが聞こえる中そう言った。
巨岩の冒険家 梅干し三太郎 @Tanakarestaurant
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