巨岩の冒険家
梅干し三太郎
プロローグ
今日の天気は雲一つだってない快晴だ。雪解け後の気持ちよい陽気が辺りを包んでいる。こんな日は外へ出て散歩に行くのも、気持ちよく昼寝をするのもいいだろう。
たくさんの人で賑わい、自分の店の商品を買わせようと明朗快活な声を響かせる女店主の声やカフェで何やら商談に勤しむ男たちの姿が見えるここは貿易町ブレーチャと呼ばれる。
そしてこの世界には魔力性動物――俗に魔物と呼ばれる――が数多く生息しており、その危険性に伴って死亡率は高い。
死亡した者の中には子供を持つ者もおり、親を失った子供は孤児院に預けられ一人前になるまで世話を受ける。
ブレーチャにも孤児院が一つ、町の中心部から少し外れたところに建っている。
その孤児院の前で大きな男と、一人の青年が向かい合っている。
「オヤジ、今まで世話になりました!」
「おう、元気でな。時々でいいから顔を出すか手紙を認めるかしてくれや。あと院長な」
赤褐色のジャケットを身に着けた青年が頭を下げると、対面する大男が厳めしい顔を柔和な表情に変えてそう言った。
青年の感謝を受ける男は孤児院「林檎の家」を運営する院長のラルゴ。若い頃は怪力で活躍した探険家だったが、今は引退して今に至る。
「俺、世界を冒険して回りたい。そんで有名になる!そしたら、そしたら…」
「落ち着け。お前が早く冒険をしたいのはわかってる。ほれ、餞別の1万オール。あとは…ギルドの場所は知ってるな?」
「おう!」
「よし、じゃあ行ってこい!死ぬんじゃねぇぞ!」
ラルゴから手向けの金銭を受け取った青年は孤児院を背にして駆け出した。
向かう先はギルド、商人や冒険家等が通う総合的な互助組合である。
「…名前はフェルズ、16歳男。遺骨の届け先はブレーチャの7番地5号。はい、確かに」
申請書にはもしクエスト中に死亡した場合、発見された遺体をどうするか書かされる。死後残った亡骸がゾンビやスケルトンなど魔物と化すのを防ぐために火葬されるのだ。
火葬された後の遺骨は希望があれば故郷に届けられるが、根無し草や戸籍のない者もいるためそういったケースは集合墓地に葬られる。
「適正検査の準備ができましたら名前を呼びますので、それまでおかけになってお待ちください」
「はい!」
そう言われた青年――フェルズは近場の椅子に腰を下ろす。暇つぶしに周りを見渡すと、色々な物事が目に飛び込んでくる。
ギルド内には丸く大きなテーブルが4つあり、それを囲むように4つの椅子が設置してある。クエストを受注するためのカウンターは入り口から見て正面に位置しており、依頼書が貼ってあるのはその左隣だ。
他にも料理を出すための調理場や素材の買取所もある。
「わぁ…!!」
4つあるテーブルの一角には1つのパーティと思われる男たちが座っていた。フェルズの位置からでは細かい内容は聞こえないが、断片的に聞こえた声から察するにどうやら次のクエストについて会議しているようだった。
見たところ金属製の鎧を着た壮年の男性がリーダーのようで、地図を指し何事かを口走る様に弓の点検をしている軽装の男が反応しローブを身に纏った女性は我関せずという様子で本を読んでいる。
その光景を見たフェルズはまだ見ぬ出会いに思いを馳せる。自分も信頼する仲間を得て強大な敵と戦ってみたい。
そうした妄想に耽ること約10分、準備ができたのか青を基調とした制服をかっちりと気為した女性が近づいてきた。
「適性検査の準備が終わりましたので、ご案内いたします。」
「うえっ?あっはい!」
声をかけられたフェルズはハッと我に返ると、言われた通りに女性の後をついていった。
「いったい何をするんだろうなぁ」
フェルズの独白は空に溶けて消える。
青年の呟きには不安の感情を含んでおらず、むしろ何をするのか期待に胸を膨らませていた…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます