途中データのゲームの主人公に憑依したので元の世界に戻りたい

みずしろ

第1話

牛、羊、アルパカ、サフォーク、馬の鳴き声で目を覚ます。しかもタイミングが六時なのだから大抵その時間に目を覚ます。


目覚めたマリカは眠たい目をこすりながら、外に出る。





外には一面の雪景色、マリカは自分の育てていた牧草を刈るために鎌を持つ。そして、鎌を振るうと


「・・・おお」マリカは何回見てもこの風景に慣れないでいた。だって、そうだろう。


刈った、と思っていた牧草がちゃんと一個の箱に収まっている。しかも9個なのである。



マリカが作物を育てている地は一つの畑に九つの収穫物が取れる、という仕様である。

何でそう思うのかって言ったらマリカはこの世界を知っている。



「・・何でストーリーのクリアがめんどくさい牧場ゲームの主人公になるかなぁ」

マリカはそうぼやいた。



・・そう、この世界は牧場ゲームの世界でマリカはこの世界にトリップしたのだ。











この牧場ゲームは現代日本で出ている牧場シリーズの15作めである。ハードは携帯機。

主人公は男か女か選べるし婿も嫁も5と5の男女比の割合で10人だ。

自分だけの牧場も作れるし鉱石だって掘れるのだ。



じゃあ何が問題なのかって?それはクリアが面倒なこと。


この15作めの今作『牧場ライフ 15貿易編』のタイトルの通り貿易がテーマになっている。

マリカに成り変わる前の日本人女性麻理子はこのシリーズが好きだった。何故ならキャラデザがマリカ好みだったのだ。




可愛らしい主人公と攻略対象、スローライフにこのゲームを買った。麻理子は疲れていたのだ。


ちなみに麻理子はこのシリーズは初めてで買う時に情報は探らないタイプだ。



買ってすぐに後悔した。「・・めんっどくせー」クリア条件が高いのだ。





まずこのゲームは貿易がテーマ。主人公のマリカが住んでいるなごやかタウンではあまり人が来ない寂れた観光地として知られている。


それを貿易で繁栄させていくのだがそのタウンに貿易国が5つくる。この最後の二つが問題なのだ。



「・・三つの国はただ何も考えず出荷すれば規程上限額になるから来るけどなんだよ残り二つの条件。

・・残り二つの国が大量のものを出荷しないと来ないなんて糞。なんだよ収穫物と料理20000個(両方)とか。工房も11000。・・あー、めんど。」


そう言って麻理子は上を向いた。だってそうだろう。


最初の国は布の国。ご覧の通り、布とかを売っている。羊の布を色んな色に染めたり鉄、土をなんでも売っている。ちなみに出荷額10000で来てくれる。



次の国は乳の国。ご覧の通り、乳製品を売っている。チーズ、ヨーグルト、なんでもござれ。ちなみに出荷額20000で来てくれる。





次の国は和の国。その名の通り商品は和風の食器、組み立て図、わかめ、のり、米、観葉和風花のなんでもござれ。簡単に言ったら和風がメイン。ちなみに出荷額500000で来てくれる。







残り二つが南国の国と氷の国。南国の国は南国メインの商品が揃っていて、氷の国では氷の国メインのものが揃っている。出荷額は1000000で南国の国。3000000で氷の国が来てくれる。別にそれは構わない。だってほぼ出荷してるだけでそれくらいになることはあるのだ。けれど、



「・・なんっで南国は収穫物は20000と料理は20000で工房は11000な訳〜?大量生産しにくいじゃーん。」

ゲームシステム上、最初はほぼ貧乏(家あり、耕せる土地はある)な為、工房はほぼ作れない。作物作って日が過ぎたら鉱石取れるので工房の生産に着手するのだ。


「・・マジクソ」麻理子は致命的なバカとめんどくさがりであった。だからめんどくせー、と思っていた。



それでもやり続けたのは主人公のマリカのデフォルトデザインがほぼ可愛くて麻理子のドンピシャな好みだったからだろう。


健康的に焼けた小麦色の肌に茶色い腰まである長い髪を一本縛った姿がデフォルトのヒロインのマリカに麻理子は惚れたのだ。



それに推しができた。男主人公の嫁候補の女の子のお兄ちゃんナディアである。

ナディアは色黒白髪赤目のイケメンである。性格は無愛想愛想なしの男だ。

たがナディアは交流していくうちに段々マリカにデレてゆく。簡単に言おう。マリカの事を信用しだすのだ。





「マリカ。これ、やるよ」ナディアは今日も食べ物を渡してくれる。

ゲームシステム上、体力が少なくなっていたら恋人になっている相手からご飯をもらえるのだ。



・・今日は焼きおにぎり。たまらなく、嬉しい。





気づいたらゲームの主人公マリカになっていた。しかも2年めの秋。



三つの国との交流はある。残り二つの国がまだ来ていないということはまだ規定条件に達ていないのだろう。


(ナディアと恋人だったのは確か。だって目が覚めたら私はこの世界のベッドの上にいて、ナディアは心配そうに私を見ていた。・・記憶を無くしてくれたって言ったらあの手この手で世話してくれるのは申し訳ないと思ってる。・・だって、私はマリカじゃない)

目を覚ましたらマリカの容姿だった。ナディアの目の前でぶっ倒れてこの町の病院に運んでもらってあなたは誰?ここはどこ?して記憶喪失だっていうのを信じてもらって恋人だって説明を受けた。




(頭の中にはマリカの知識や記憶はある。けれど記憶や人格は私。

・・私には私の生活がある。早く元の世界に戻りたい。

・・残り二つの国は出荷をしなきゃだけど南国の国が工房11000、収穫物と料理はそれぞれ20000。それらを出荷したら南国の国が現れるのは攻略本であった。・・出荷歴も見れるけどまだその域じゃない。

・・雪の国は生活用品。・・模様替えや道、壁紙をそれぞれ100出荷しないといけない。けどその域にまだ達してない。

・・途中データの主人公に憑依しちゃったけど体を返さなきゃ。元の世界に戻りたい。)私はそう思っている。




「どうした?」とナディアの無愛想な声がする。マリカはその声に顔を上げる。




ナディアは記憶を思い出さないマリカに悲しげな顔をする。

それに耐えるよう、マリカは笑ってこういうのだ。




「なんでもない。ありがとう。焼きおにぎり。じゃ、仕事に戻るから。」

ゲーム通りのマリカの笑顔を浮かべながら今日も彼女は笑っている。

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