第5話 エプロンの下が気になりますか?

 愛希と萌仲もボタンを押すと、続けて頭部の形がやや違う機体と、両腕にパイルバンカーのついた機体がかしずく。


「後は手に乗るだけだぞ」


 ミア姉に言われるがまま、俺らは差し出された、巨大な手の平の上に足を乗せた。

 途端に、三機のBMは俺らを持ち上げ、自身の肩へと運んでくれる。


 すると、頭を垂らした首の付け根が開いているのが見えた。


 中を覗き込むと、コックピットらしきシートがある。


 ただし、中は凄く狭くて、余計なスペースなんてほとんどない。コックピットというよりも、まるで棺桶だ。


 棺桶、そのイメージはちょっと悪いな。


 撃墜されたら、この機体がそのまま俺の棺桶にってか?


 苦笑いを浮かべながら、確かにこれなら、小柄な女子でないとパイロットは無理だろうと納得した。


 コックピットに足から入ると、体にフィットしたスーツのおかげで、引っ掛かることなく滑り込めた。


 成程、ミア姉の言う通り、このスーツのデザインは実用的と納得、するわけもない。だったらなんで男女でデザインが違うんだよ?


 と心の中で文句を言っていると、シートの安全ハーネスが俺の体を締め付けるように固定してから、BMの首が持ち上がり、コックピットが閉じた。


 続けて、真っ暗なコックピットの中に、外の光景が広がった。


 壁全体が、画面のようになっている。


 内部スピーカーから、ミア姉の声が流れる。


「ブレインメイルは名前の通り、脳波で動かせるブレインコンピュータシステムで操縦する。巨大ロボは操縦が複雑などと言われているが、これでその問題は解決するし、むしろ訓練期間は戦車よりも短くなる。さぁみんな、両足とは別の、第三第四の足を動かそうとしてみてくれ」


「へー、そりゃ操縦が楽でいいな。そんじゃ、よっと、お?」


 立ち上がろうとした瞬間、俺のBMは、派手にすっ転んだ。

 けたたましい音と振動にせき込むと、すぐ隣からも重低音が轟いた。

 首を回すと、二機のBMが倒れていた。


   ◆


 朝、目を覚ますと、俺と愛希のまつげは触れあいそうなほど近く、舌とくちびるに至っては完全に触れ合っていた。


 ちゅぱ、と音を立てて口を離すと、エプロン姿で俺の腹にまたがってる愛希は、笑顔で身をくねらせた。


「おはようございます、兄さん♪ 白雪姫のように美しく爽やかな朝ですね♪」

「男女逆だろ」

「つまり兄さんが私にキスをしたいと!?」

「言ってねぇし」


 美少女のキスで起きるのは悪くないけど、兄としては妹の将来が不安になる。

 そして不安になりつつ、愛希の恰好に期待が膨らむ。


 愛希のエプロンからは、白い肌の脚線美と肩が、そして胸の谷間がハミ出している。


 まさかとは思うが、そのエプロンの下は……。

 文明人にあるまじき妄想にわくわくしていると、愛希は瞼を下げ、流し目を送ってきた。


「あっ、兄さん気になります? エプロンの下、気になっちゃいます?」

「べ、別に気にしてなんかいないんだからね!」


 と、鼻息を荒くしながら、何故かツンデレ女子風のセリフを言ってみる。

 寝起きの男子は、非文明人なのだ。

 こんな誘われ方をしては、理性的な対応などできるわけもない。


 俺の視線は、胸の谷間とエプロンの裾にくびったけだった。


 そして次の瞬間、愛希はベッドから下りると、くるりと回り、魅惑的なヒップを俺に突き出した、が。


「なーんちゃって、ちゃんと短パンチューブトップを着ているんですよ♪ どうですか? ドキドキしちゃいましたか? ムラムラ来ちゃいましたか?」

「ムッ」


 期待を裏切られた恨みから、俺の中に復讐心が芽生えた。

 この妹には、兄として天誅を下す必要がある。それも、今すぐに。


「おい」


 得意満面でしてやったりの愛希の手首をつかむと、強引に抱き寄せた。愛希の身長は、俺とあまり変わらない。だけど華奢な体は俺の腕の中にすっぽりと収まり、クッション性の高いバストとヒップも相まって、繊細かつ芳醇な抱き心地を提供してくれる。


 できることなら、しばらくこのままでいたいが、今は復讐が先だ。

 俺は怒りと憎しみを以て、白くみずみずしいおでこにキスをした。


「はわっ!」


 おでこが熱い、くちびるが火傷しそうだ。

 愛希の顔は真っ赤で、目は焦点が合っていない。


 ボンッ、と音がなりそうな動きで肩を跳ね上げると、突然俺の肩口に熱い顔をうずめて動かなくなる。


 耳元では「むきゅぅ~」と小動物めいた鳴き声が聞こえた。

 この通り、愛希は攻めるのは好きだが、攻められるのは苦手なのだ。

 意識を朦朧とさせる愛希をベッドに残して、俺はさっさと起きた。


   ◆


 歯を磨いてから学園の制服に着替え、リビングへ行くと、キッチンの方から肉の焼けるいい匂いがしてくる。


 アイランドキッチンでは、正気を取り戻した愛希が、フライパンを二つ使い、オムレツとウィンナーを焼いてくれている。


「ほっ」


 愛希が右手でフライパンを返すと、オムレツが空中でくるりと反転した。

 左手は菜箸を器用に使い、油を布いたフライパンの上でウィンナーを転がしている。


 本当に器用な、というか、優秀な妹だ。


「悪いな、ミア姉がいないときは任せちゃって」


 少将を務めるミア姉は、仕事で月の半分ぐらいは朝が早い。

 俺らが起きる前に、さっさと家を出てしまう。


「いいんですよ。私が兄さんの胃袋をつかむために好きでしていることなんですから♪」


 現代では、料理をする世帯は半分以下に減っている。若い世帯ほど、その特徴は顕著だ。


 レトルト食品と通販の発達により、家では買い置きのレトルト、無ければネットで注文してドローンに宅配してもらう世帯が多い。


 若い人にとって、料理は趣味でしかない。


「そして兄さんは私か姉さんの手料理しか食べられない体になり二度と私たちからは逃れられない体に、ふふふふふ」


 可愛らしい妹クッキングから一転、邪悪な魔女のポイズンクッキングにしか見えなくなった。将来、愛希は俺が貰ってあげないと、そんな使命感が湧いてきた。

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