第4話 後は手に乗るだけだぞ

 脇を占め、両手を天井に向けた神様ポーズの愛希に言ってやる。


 それでも、めげることを知らない愛希は、嬉しそうに萌仲の両頬を同時に突っついた。


 さすがは愛希、俺やミア姉とはレベルが違うぜ。


「あ、姉さん、そろそろ萌仲さんを返してください」

「うむ」


 まるで自分に所有権があるかのように、そしてぬいぐるみのように萌仲を抱きしめた。


「はふぅ、萌仲さんかわいいです」

「おい愛希、まさかとは思うが可愛いっていう理由だけで勧誘したんじゃないだろうな?」


 確かに、ミア姉は美少女のほうがイメージ戦略になるとは言ったが、能力が無ければ元も子もない。


 俺らの目的は、あくまでも巨大ロボで戦果を挙げて、巨大ロボの有用性を示すことだ。


「大丈夫ですよ」


 愛希は萌仲を床に下すと、彼女の両肩に手を置いて語った。


「なんと、こう見えて萌仲さんは軍隊格闘と銃剣術の全国大会出場経験者なのです!」

「いえーい」


 と、萌仲は無表情無感動な、棒読みボイスでピースサインを作った。


 それがお人形さんのようで、べらぼうに可愛かった。


 そして、頭の上のリスが、えっへん、と丸いお腹を突き出しているのが重ねて可愛い。


 ミア姉と愛希以外の女子で、こんなにドキドキするのは初めてだった。


「でも萌仲、巨大ロボに乗るのって危ないぞ、なんでやる気になってくれたんだ?」

「んっ、わたし軽いからパンチ力ない。でもおっきいロボに乗ったら絶対強い」


 しゅっ、しゅっ、と小さなグーを突き出す萌仲。無表情だけど、心なしかドヤ顔に見える。頭の上では、電子ペットのリスが、申し訳程度の小さなお手てをミニミニモチモチ動かしていた。


「フッ、それは頼もしい。では若人諸君! 我が自慢の愛機達をご覧に入れよう!」


 景気よく声を上げ、ミア姉は扉のスイッチを押した。

 圧縮空気が抜ける音がして、重々しい扉が、レールの上を転がり左右に開く。


「!?」


 真っ先に目に飛び込んできたのは、四体四種の巨人だった。

 その姿に目を奪われて、さっきまでのぽわぽわした気持ちが吹き飛んでしまう。


 もっと良く見ようと、自然と足が前に出る。

 俺も一人の男子として、巨大ロボは嫌いじゃない。


 子供の頃から、フィクションの産物だとばかり思っていた巨大ロボットの実物が目の前にある。その事実が、俺の心臓を高鳴らせた。


 アニメの巨大ロボとは違い、用途不明の突起や、ギザギザのパーツは一切ない。


 太く、たくましくも洗練された四肢に、厚い胸板。

 高い機動力を感じさせる、アスリートのようなウエスト。


 それに、装甲の多くが平面ではなく、人体と同じ曲面で構成されている。


 巨大ロボというよりも、サイバネティクスに基づいて設計された、外骨格パワードスーツのようにも見えた。


 ただし、一部の兵士が着用している外骨格パワードスーツ、軍事甲冑と比べると、やはりロボットなのだと理解する。


 軍事甲冑とは違い、肘や膝が二重関節になっているのがいい例だ。

 それでも、やや重装甲な軍事甲冑に見えなくもない。そこがまた、確かなリアリティを以て、俺に巨大ロボの存在を実感させてくれた。


「現実的に巨大ロボを作ると、こんな感じになるんだな……」

「もっと余計なパーツがついていると思ったかい?」


 俺が感嘆の声を漏らすと、ミア姉が顔を覗き込んでくる。


「まぁ、俺らが知っている巨大ロボって、アニメに出てくるようなのばっかだしな」

「だけど渋くてカッコイイです。ゲームに例えるとスーパー系ではなくリアル系ですね♪」

「ん♪ 強そう」


 巨大ロボの前ではしゃぐ愛希と萌仲。無感動な萌仲の声からも、僅かな興奮を感じ取れた。頭の上のリスも、きゅーきゅー鳴いて喜んでいた。あの電子ペットは、萌仲の脳波と連動しているに違いない。


「この機体は、パイロットが生身と同じ感覚で操縦できることを念頭に設計されている。これが私自慢の愛機たち、兵器甲冑ブレインメイルだ!」


 高らかに声を張り上げたミア姉を一瞥してから、あらためて機体を、ブレインメイルを見上げた。


 三階建ての建物に相当する身長に俺が圧倒されていると、ミア姉がカバンの中から何かを取り出した。


「まっ、長ければ縮めてBMでもよいがな。では各自、これに着替えてくれ!」

そう言って俺らに突き出したのは、三着のパイロットスーツだった。


   ◆


 更衣室でパイロットスーツに着替えてから、再びBMの前に戻った。


 すると、更衣室の方から遅れて愛希と萌仲が現れ、そのセクシーさに目を奪われる。


 パイロットスーツは、最初はぶかぶかで、着てから左腕のスイッチを押すと、着用者の体に合わせて縮み、フィットする。ぱっと見は、ダイビングをするときのウエットスーツのようにも見える。


 だけど、ウエットスーツよりもずっと、体のラインがあらわになるせいで、グラビアモデル並のプロポーションを持つ愛希と、トランジスタグラマーな萌仲のボディラインが丸見えだった。露出度は少ないのに、水着とはまた違った魅力がある。


 対する俺の、男用のスーツは体のラインが隠れるタイプで明らかにデザインが違う。


「どうです兄さん、似合っていますか?」

「あ、ああもちろん、凄く似合っているぞ……なぁミア姉、このスーツのデザインって」


 小声で尋ねると、ミア姉は百万ドルの笑顔になった。


「ワタシのデザインだ!」

「ですよねぇ……」


「むむ、何を呆れた顔をしている? 言っておくがこのスーツのデザインは、狭いコックピットへの搭乗に適しているだぞ。百聞は一見に如かず、まずは乗ってくれ」


「乗るってどうやって?」


 BMの身長は、八メートルはありそうだ。見たところ、コックピットへ続くキャットウォークも、ハシゴもない。


「左腕の四角ボタンを押してくれ」


 暗い所でも触って分かるようにするためだろう、スーツの左前腕には、丸、三角、四角など、それぞれ形の違うボタンがある。


 言われた通り、四角ボタンを押すと、両腕にガトリングが、背中にミサイルランチャーが装備された機体が、一人で膝を折り、主を前にした騎士のようにしてかしずいた。


 愛希と萌仲もボタンを押すと、続けて頭部の形がやや違う機体と、両腕にパイルバンカーのついた機体がかしずく。


「後は手に乗るだけだぞ」

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