「このままでいい」と言ってほしかった
宝木望
第1話
「新発売のワインはいかがですか!」
私と双葉は、にっこりと笑って周囲の人々に呼びかけた。
私と友人の双葉はキャンペーンガールのアルバイトをしていた。高級ワインに合わせてフォーマルな感じのワンピースを着て、仕事をしていた。
「桃子、買ってくれた人いた?」
少し離れた場所でワインを販売していた双葉が聞いてきた。
「まあまあ。そっちは?」
「私もまあまあかな」
私と双葉は高校卒業後、20歳になる今までキャンペーンガールのアルバイトをしてきた。キャンペーンガールはイベントの会社に所属して、食品やスマホなどを販売する仕事だ。20歳になったから、お酒や煙草を販売できるね、と言っていたところだった。
私達はキャンペーンガール以外の仕事、CMなどに出演するタレントになりたいと思っていた。顔だって可愛いしスタイルも良ければ、そういうことを考えてしまう。特に双葉は多くのオーディションに応募するなど、積極的だった。
「うわ!『ゼロ・アンド・ゼロ』のモニターに当たってる!
ラッキー!」
仕事が終わってスマホを見ていた双葉が言った。ダイエットサプリのモニターに応募して、抽選に当たったらしい。
「この『ゼロ・アンド・ゼロ』はね、食べ物を食べなくても、お腹が減らない効果があるんだって。発売前モニターで3ヶ月分を無料でくれるのよ。タレントを目指すからには、高い美意識を持たなくちゃね」
双葉は嬉しそうに説明してくれた。
3ヶ月後、ゼロ・アンド・ゼロを販売しようとしていた会社が摘発された。ゼロ・アンド・ゼロに重大な副作用が発見されたためだ。それは消化機能を抑え、あげくに何も食べられなくなり、ついには寝たきりになってしまうという恐ろしい副作用だった。
私は双葉が入院している病院に見舞いに行った。
ベッドの上の双葉は瘦せ細っていて、多くの管がつながっていた。双葉は私を見ると言った。
「桃子、私ね。食べ物が食べられないの。でも、どうでもよくなっちゃって」
双葉のスマホのバイブが鳴った。目をやると、同じ電話番号から何度もかかってきた通知があった。
「桃子。鳴らしておけばいいよ。私には電話に出る力がないんだから」
「でも、ここって電話するの禁止だよね」
「それね、詐欺の電話みたいなの。私みたいなの騙しても、しょうがないのにね。面白いよね。そうだよね・・・」
双葉は、そう言って、にっこりと笑った。
「このままでいい」と言ってほしかった 宝木望 @takinozomi
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