第28話 魚
ラージャに水場が近い住むに適した場所がないか聞いてみたところ、1000年前ならばと注釈がつくが案内してもらうことになったんだ。
移動を魔道車で行ったところ、ラージャもモレイラと同じように大層驚いていた。いや、モレイラ以上だったかもしれない。
道中聞いたことだが今と違って1000年前は魔道具の活用がほぼ行われていなかったのだって。結界の魔道具に関しても、魔道具と認識していたというよりは儀式の一種と理解していたのだという。
ふむふむ。俺にとっては良い情報でなにより、なによりだよ。
結界の魔道具発動前は天の地の魔道具を掘り起こすこともできたのだが、魔道具を使う者がいなければ手つかずのままである可能性が高い。
「そろそろだ」
「マスター、湖です」
ラージャの言葉に窓の外を眺めていたペネロペが重ねる。
何、湖だと。豊富な水源きたー、と魔道車を停めて外に出てみた。
ハリーを肩に乗せ、うっきうきで外に出る。
ほほお、こいつは。
天の大地が落ちた時にできた窪みに水がたまり湖となったのだろうな。落ちてきたであろう切り立った崖の中腹にギリシャローマ時代の神殿のような建物が斜めになっているが、今もまだ形が崩れず残っている。澄んだ湖の底にも建物の影がありそうだ。
ここなら湖の底を漁るもよし、崖に登って横穴を探すもよし、しかも、水源も豊富だからか自然の恵みもある。少人数で暮らしていくなら、畑がなくとも食料に困らないんじゃないかな。
「湖のほとりから少しだけ離れたところくらいがいいかな」
この辺かなとあたりをつけて指をさすとペネロペから意見が入る。
「もう少し湖から離れた方がよろしいかと。湖から出る川が細いです」
「雨が降ったら水位の上昇幅が大きそうか。念のため、更にもう少し離そうか」
「その方がよろしいかと」
「しばらくは魔道車で寝泊まりかなあ」
ちょいと狭いがラージャを入れても寝るだけなら何とかなる。魔道車の外に荷物を出せばスペースも広がるし。
「よおし、じゃあ、さっそく魚を取ろうぜ」
「一番最初にやることが魚ですか」
「湖の恵みに感謝からだろここは」
「おなかがすいているだけなのでは?」
ペネロペの鋭い突っ込みに対し頭をかいて誤魔化す。はは、まあそんなところだ。腹が減ってはというだろ?
俺の肩から降りてトコトコと湖の岸辺に向かおうとするハリーに待ったをかける。
「ハリー、ビリビリはダメ、絶対」
『みゅ? 魚獲れるみゅ?』
「ハリーのビリビリは強力になっているから、下手したら湖全体の魚が浮く」
『みゅ?』
可愛く鼻をひくひくさせれても俺は揺らがないんだからな。
そこで負けじと鼻をひくひくさせたマーモが口を挟む。
『魚は要らないモ。リンゴが欲しいモ』
「リンゴあったっけ?」
ペネロペへ目配せすると「ございます」と返してきたので、彼女にリンゴを任せることにした。
街でフルーツも買っておいたんだよね。ここなら自生している木の実とかあるんじゃないかな。探してみないことには確証を持てないけど。
マーモがフルーツ好きなら彼に聞くのが早そうだ。
『モ?』
「あ、いや、今はいいや」
小刻みに歯を動かしてシャリシャリとリンゴを食べているマーモの邪魔をするのは気が引ける。急ぐ話でもないし、そのうち聞こうっと。
魚が俺を待っていることだしな!
「さあて、どうやって魚を獲るかなあ」
「魚影は見えますね」
「すげえ視力だな……」
「失言でした。魚の気配が感じられます、が正確なところです」
どっちにしてもすごすぎるってば。俺も魔法陣魔法を使えば湖を覗き込まずとも魚がいるかいないかを探ることはできる。
だがしかし、ペネロペは魔法を使った様子がない。これまでの彼女の戦いぶりを見ていれば、まあそうだよね、と納得できちゃうけどさ。
「ペネロペが魚がいることを確認してくれたことだし、捕まえるのは俺がやるとしようか」
「石を投げるんですか?」
「石を投げて魚に当たらないってば。それに水中に入ると威力がなくなる。あ、俺がやった場合だからな、投げなくていいぞ」
「喋っている間に投げちゃった方が早いですよ」
と言いつつ彼女の右手がブレる。
きっと魚に当たっているんだろうなあ、と確信するものの浮いてきた魚が実際に見えたわけじゃない。
『みゅ』
「おお、ありがとう、ハリー」
ハリーが光の速度で魚をとってもどってきてくれた。石が当たった魚なのだろうなこれ。石が当たったショックで気絶しているようで魚はピクリともしていない。「ありがとう、じゃねええ! いや、ハリーに感謝してないわけじゃないよ」
『みゅ』
しゅんとなりトゲトゲがしなっとなってしまったハリーの鼻をなでなでする。俺が怒ってないと分かったのか、彼は「ギーギー」と喉を鳴らしていた。
「ここは魔法でどーんとやるところだろ」
ペネロペに突っ込みを入れるが彼女はすんとしたまま微動だにしない。すんとしているときと、そうじゃないときの差が極めて少ないのだが、俺には分かる。
ちょっとだけ彼女が拗ねているってことにね。
彼女と正反対で俺はとても分かりやすく感情が顔に出る。
「省マナが染みついてますので」
「そ、そうだな、うん」
無難な言葉を返し、誤魔化しきれたと感じた俺は術式を組む。
「術式構築、ウォータースクリーン」
湖面がうねりグウウンと水の壁が勢いよくせり出し、岸に倒れ込むようにしてバシャーンとなり大半の水は湖に戻る。
水が落ちた岸辺には数十匹ほどの魚がピチピチと跳ねていた。
「見事なものだな。魔法陣魔法というものは」
腕を組み感心した様子のラージャに向け親指を立てる。
「さあて、集めよう、集めよう」
「私も手伝おう」
『みゅ!』
ラージャとハリーに続き、何も言わずとも真っ先に魚を集め始めてくれたペネロペには頭が上がらないな。
憎まれ口を叩いても何のかんので俺のために動いてくれる。もはや彼女と俺は雇用関係にはないってのに、本当に感謝している。
絶対に口に出しては言わないけどな!
修理屋の俺は穴掘りとごみ拾いで快適な生活を目指そうと思う~気が付いたら文明崩壊後のファンタジー世界だった件~ うみ @Umi12345
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