公園で出会った異世界人

八幡太郎

公園で出会った異世界人

 金曜日の夜、会社から帰り動画配信など見てたらあっという間に夜中の1時。


「もうこんな時間か、冷蔵庫の中もほとんど空っぽだし、明日の朝飯もないから、コンビニまで行ってくるか……」


 最近はあまり運動していないということもあり、深夜ではあるが、散歩がてら家から少し離れたコンビニに行くことにした。


 コンビニに向かう途中、大きな公園を通ると、少し離れたところにファンタジーゲームでよく見かけるキャラたちが3人で話している。


「こんな夜中にコスプレか?」


 少し奇妙に思い、見つからないように近づき聞き耳を立てると、とんでもない会話が聞こえてきた。


「どうするの? これでは元の世界に帰れないわよ!」

「元の世界に戻るには魔法陣を作って、周りにロウソクを立て、神にささげる酒も必要じゃ! しかし、この世界でロウソクや酒を手に入れるにはどうしたらよいものか?」


(え、エルフにドワーフ、それに獣人だ!)


 長身で耳が長く、金髪の女のエルフとオッサンのようにずんぐりとした体型のドワーフ、そして長身で筋肉質なオオカミのような耳と尻尾のある獣人。


(間違いない! 異世界人だ!)


「あの、ロウソクとお酒なら、今からコンビニに行くので買ってこれますよ!」

「え、あなたは?」

「いえ、気にしないでください。10分ほど待っててもらえますか! 直ぐにコンビニに行って買ってきます!」


 俺は突然の出来事に驚いたが、まさか本当に異世界人に会えるとは思わず、胸が高鳴り、コンビニに向かって走る。


 ロウソクとお酒と言ってもコンビニで調達できるものには限りがあるので、コンビニでも売ってる仏壇用のロウソクにライターとカップ酒を買って公園に戻る。


「買ってきましたよ!」


 明日の朝食を買う予定が仏壇用のロウソクとカップ酒を買うことになったが、早く彼らを異世界に帰してあげなければという謎の使命感で急いで公園に戻った。


 しかし、公園に戻ると先ほどの3人はいなくなっており、彼らが居た場所には木の棒で書いた魔法陣と『なんとか帰れました!』という文字が地面に書かれていた。


「無事に帰れたならよかった!」


 メッセージが日本語なことに違和感も感じず、安心した俺は近くのベンチに座り、カップ酒を飲む。


「そういえば、明日の食事買ってないや。帰りがけにもう一軒コンビニあるからそこで買って帰ればいいか……」


 役には立てなかったが、異世界人が無事に帰れてよかったという晴れ晴れとした気持ちで帰りがけにコンビニに寄り、明日の朝食を買って家に帰る。


「おい、さっきのお兄ちゃん、行ったぞ!」

「びっくりね。演劇の練習していたら、いきなり会話に入ってくるからびっくりしちゃった。明日が本番だからって衣装まで着てきたのは失敗だったわね」

「アイラはフィンランド出身だし、長身で金髪だから本物のエルフと思われたんじゃないか?」

「雄三さんだって、そのメタボでずんぐりむっくりの体型がきっと本物のドワーフに見えたのよ!」

「まあ、二人ともその辺にしてそろそろ帰ろう! 俺のアパートがこの公園の隣にあるからって、ここで稽古したのはまずかったな……。最近はゲームやアニメの影響で本当に異世界人と勘違いする人も多そうだし、警察に職務質問されても困るしな……」


 獣人の格好をした長身の男がエルフとドワーフの格好をした仲間の劇団員をなだめると三人は木陰でジャージに着替え、足早に公園を出ていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

公園で出会った異世界人 八幡太郎 @kamakurankou1192

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画