第23話 藤原


 僕はヘリの中の操縦士を視界に捉える。


 そして思い切り睨みつけた。


 ヘリの中の操縦士と視線が合う。操縦士が目をカッと開くと、肉体が膨張し、破裂。ヘリのフロントガラスに体液と内臓がビシャっとついた。


 ロケットランチャーを構えていた兵士は慌てて、ヘリ内、コックピットに移動しようとするが、もう遅い。


 ヘリは制御を失い、ぐるぐると回転しながら僕たちの乗る車に接近。木々にプロペラがぶつかり、折れ飛び、空中分解しながら、地面に頭から突っ込み、爆発した。


「うおっ・・・!」


 コウが墜落し燃え上がるヘリを見て思わず声を漏らす。ヘリの爆発によって生じた爆風が僕の髪を揺らした。


 もう一機が同胞をられたことに激怒するように、機銃を乱雑に掃射し始める。僕はそのヘリの操縦士も同じようにめ付けた。


 もう一機のヘリも、操縦士を失うと、先ほどのものと同じように、あっけなく墜落した。


「すげえな。これが『この世の神』の力か・・・」


 コウがルームミラーから僕を見ながら呟いた。


 僕は“力”の反動が肉体に来たのか、咳とともに血を二つ吐く。口元についた血を僕は袖でぬぐうと地面に伏し、火炎を上げるヘリ二機とそれより先から敵が接近していないかを確認する。


 僕の視界には一人として入らず、銃声も弾丸が飛んでくることもなかった。


 僕たちの乗った車は山道を介して、二車線の道路に出る。


 コウは黙々と運転し、僕は疲れで前腕で目を覆いながらシートに体をあずけていた。


 フロントとリアのバンパーが山道での逃走劇で外れたのか、カタカタと地面とこすれる音がする。


「そういえば、どうしてあの場所に?」


 状況も落ち着き、僕はコウに気になっていたことを尋ねる。


 コウは視線を正面に向けたまま、答えた。


「俺たち藤原家にも通達が来たんだ。今回列車で輸送する対象についての通達がな」


「通達?藤原家に?どうして?」


「今まで話してこなかったけど、俺たち藤原家は飛鳥時代の藤原鎌足ふじわらのかまたりから続く家系で、俺はその子孫だ。藤原鎌足といえば大化の改新で天智天皇から中臣鎌足なかとみのかまたりが亡くなる直前に藤原姓を賜ったのは有名な話だろ?その子孫の藤原道長ふじわらのみちながも」


「摂関政治を行い、藤原家の栄華の頂点を築いたのが藤原道長だったっけ?一条天皇に娘の彰子を入内にゅうだいさせ、皇后に立てた。彰子の教育係が紫式部むらさきしきぶだったのは有名な話だ」


「対立していた定子の教育係が清少納言せいしょうなごんなのもな。それにしても日本史選択じゃなかったのによく知ってんな。流石さすがだ」


「お世辞はいいよ」


「はは、相変わらず謙虚だな、カイは。まあ、ともかく彰子と定子の対立の話は置いておいて、藤原道長の没後、いや道長よりももっと前、藤原良房ふじわらのよしふさが初めて摂政に命じられ、藤原基経ふじわらのもとつねが関白となって以降、子孫である藤原家直流によって世襲された。明治維新で徳川慶喜とくがわよしのぶが王政復古を行なったのち近衛家、九条家などの藤原北家嫡流による摂関政治は行われることは無くなった」


「有名な話だね」


「そうだな。藤原北家嫡流による摂関政治は行われなくなった。でも、藤原家と皇室の関係が完全に途切れたわけではない。むしろ藤原北家は皇室直下の組織に組み込まれ、さらに関係性を強めた」


「その組織が宮内庁?」


 僕からの質問にコウは黙って頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 00:00 予定は変更される可能性があります

善と悪 花鳥ヒカリ @han1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画