13.


「君は……確か……」


 突然声を掛けてきた奏に徳二は驚きの顔をした。


「突然申し訳ありません。あの……何かあったのですか?」


 奏がどこか焦っている徳二を見てそう言葉を掛ける。


「あ……あの写真の女性を見なかったか?!」


 徳二が奏の肩を掴みながらどこか切羽詰まった様子で言う。


「……やはり、絵梨佳さんの事を知っているのですね?」


「っ……」


 奏の言葉に徳二が言葉を詰まらす。


「実は――――」


 徳二はそう言うと、絵梨佳を匿っていたことを話しだした。


「――――というわけなんだ。それに……」


 徳二は話し終えるともう一つの話を始める。その話に奏と透は驚きを隠せない。


「絵梨佳さんを探しましょう!!」


 奏がそう言い、徳二と共に絵梨佳を捜索することにした。




「少し出掛けてきます……」


 新形がそう言葉を綴る。


「なんだ?急用か?まぁ、いいだろう……」


 新形の言葉に神明がそう問いかける。


「ちょっと、野暮用が出来たので……」


 新形はそう言うと、部屋を出て行った。そして、手下数人に声を掛けて、その人たちと共にあるところに向かった。




「……後、絵梨佳が行きそうなところと言えば……」


 政明が呟く。絵梨佳が行きそうな場所は殆ど探したが、絵梨佳は見つからない。後どこか絵梨佳が行きそうな場所を必死で考える。


「もしかして……」


 政明はある一つの場所を思い浮かべ、その場所に急いで駆け出していった。




「……ここがその場所か……」


 紅蓮と槙が女性から聞いた場所に足を踏み入れる。そこは噴水のある一つの広場のような場所だった。


「ここにいるかどうかは分からないがな」


 槙が淡々と言葉を綴る。


「とりあえず、捜索してみようぜ」


 紅蓮の言葉に槙が頷く。


 それなり敷地がある広場にはベンチが点在しているが、時間が夕刻のためか人通りはほとんどない。


 その時だった。


 一人の女性が広場に入ってくるのが見えて、そちらに顔を向ける。その女性は広場に入ると、あるベンチに一直線に進み、そこに腰を下ろした。


「近場の人間か?何も持っていないし……」


 槙が女性の手に何も持っていないことにそう呟く。


「……まさかとは思うが……」


 紅蓮が女性を見ながらそう言葉を呟く。


「絵梨佳……じゃないか?」


「え?」


 紅蓮の言葉に槙が声を出す。


「格好はそんなことをしていそうだが、顔が違うじゃないか」


 槙が呆れたようにそう言葉を綴る。


「確信はないが、あれ……すっぴんなんじゃないか?」


 紅蓮が遠目でその女性を見ながらそう答える。


「ほら、奏ちゃんが言ってただろ?買い物の中にクレンジングシートがあったって……。もし、それを買ってくるように頼んだのが絵梨佳だとしたら、あれはメイクを落とした状態じゃないのか?」


 紅蓮がそう言葉を綴る。


「……それであんなにも顔が変わるものなのか?」


 槙が半ば驚いた様子でそう言葉を綴り、「メイクって怖いな」と呟く。


「とりあえず、ちょっと様子を伺おうぜ?」


 紅蓮がそう言って槙と共に隠れるように絵梨佳の様子を見ていた。




 辺りが薄暗くなっていく中、政明はある場所を目指して駆けていく。その姿を見失わないように本山と杉原が後を追う。


(……頼む……そこにいてくれ……絵梨佳……)


 政明が懇願するように心で祈る。



「……何処に向っているのでしょうかね?」


「わからん……。見失わないようにするぞ」


「はい」


 杉原の言葉に本山がそう答える。そして、政明の後姿を追っていった。




「あの場所から動かないな……」


 紅蓮がポツリと呟く。


 メイクを落としている状態なので絵梨佳かどうかの核心はないが、可能性は高いとしてその女性を見張る。


「……誰かを待っているのか?」


 槙がその場所から動かない女性を見てそう言葉を綴った。




「……一体どこに行ったのでしょうか?」


 奏たちが絵梨佳を探しているが、絵梨佳は何処にも見当たらない。何処に行ったのか見当もつかない。


「佐崎さん、他に絵梨佳が行きそうな場所はあるか?」


 透が徳治にそう問う。


「いや……、分からん……。絵梨佳のことは殆ど知らないんだ……」



 ――――トゥルル……トゥルル……。



 そこへ、透の携帯が鳴り響いた。


「はい、もしもし……。……何?!」


 透が電話の相手から伝えられたことを聞いて声を上げる。そして、奏たちにそれを伝え、その場所に急いで足を運んだ。




(……私、何のために生きてるんだろ……)


 噴水の前のベンチに座りながら絵梨佳が心でそう呟く。


(このまま、ここで死ぬのも悪くないかな……。体が冷えて……意識が遠くなって……死んでいく方がいいかも……)


 そんなことをぼんやりと考えながら、体を丸めて顔を埋める。


 その時だった。



「見つけた!」


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