12.


「あっ……あっ……」


 徳二の目の前で銃口から煙だけが出る。


「弾は入っちゃいない……。だが、次は……分かっているな……?」


 神明が笑みを浮かべながら言う。


「あと二日でケリを付けてこい……」


「は……い……」


 神明の言葉に真っ青になりながら徳二が答える。


 そして、神明に「行け」と言われて、徳二はその部屋を出て行った……。




「……くそっ!ここにもいないか……」


 政明が絵梨佳が行きそうな場所に足を運びながら必死に探すが絵梨佳はなかなか見つからない。繁華街の客引きをする場所やそう言った人たちのたまり場にも足を運ぶが見つけることが出来ずにいた。


「他は……」


 政明がそう呟きながら他に絵梨佳が行きそうな場所を考えた。



「……本山さん、あれ……」


 杉原が何かに気付いて声を出す。


「あれは……?!」


 杉原が指を差した方向に本山が顔を向ける。すると、その方向には政明が見えた。


「……誰かを探している感じですね」


 隠れるように政明の行動を監視する。


「とりあえず、尾行するぞ……。もしかしたら、絵梨佳に接触できるかもしれないしな……」


「はい……」


 本山と杉原が政明に気付かれないようにその後ろを追跡することにした。




「……このまま世話になるのも悪いよね……」


 一人残されたアパートの部屋で絵梨佳がそうぽつりと呟く。徳二に事情を話したものの、このままここに匿って貰っては徳二にも申し訳ないし、巻き込んでしまう可能性もある。親切心でここまでしてくれているだけで身体の関係を求める訳でもない。何となく居心地がいいのでここに居たい気持ちもあるが、このままでは迷惑を掛けてしまう。


「行こ……」


 絵梨佳は小さくそう呟くと、そっとアパートを出て行った。


(久々にあの場所に行こうかな……)


 心の中でそう呟く。その瞳にはすべてを終わらせるという仄暗い雰囲気を漂わせている。



『このまま生きていても意味がない』



 絵梨佳はそう悟ったのだろうか……。生きるために『自分を売る』という事をして、どんどんと心を蝕ませていった。しかし、それしか生きていく方法が無かった……。自分の若さと性を利用してお金を稼いでいたが、これが死ぬまで続くのならいっそのこと終わりにしたい……。そんな気持ちが膨れ上がってくる。


(……出来ることなら最後にマサにもう一度会いたいな……)


 心でそう呟きながら政明との思い出が溢れ出す。



 初めて出会った時……。


 二人で他愛無いことで笑いあった日々……。


 酒を飲んでバカ騒ぎをした時……。



 政明との思い出が溢れ出てきて止まらない。こんな日々の繰り返しの中で政明は絵梨佳の心の支えでもあった。なのに、どうして麻薬を渡したのか……。それの理由が知りたい気持ちと、知るのが怖い気持ちが心の中で反発する。


「マサ……」


 絵梨佳がそう呟きながら涙を浮かべる。



 そして、『最後に』という思いで、自分の一番の思い出の場所に足を進ませた。




「……そこによく絵梨佳は行くのか?」


 紅蓮と槙が聞き込みをしていくと、ある女性から絵梨佳にはお気に入りの場所があると言うということが分かった。その女性も絵梨佳と同じようなタイプの女性で身なりからしてそういうことをしているのだろう。そして、稀にだが絵梨佳がある場所にいるという事を聞く。


「んー……。詳しいことは知らないけど、気に入っているというのは聞いたことがあるよ?よく見かける訳じゃないけどね」


 女性の話に紅蓮と槙は頷くとその女性にお礼を言ってその場所に行ってみることにした。




「絵梨佳、戻ったぞ」


 徳二が途中のコンビニで買ってきた弁当をぶら下げながらアパートの部屋に戻ってきた。しかし、部屋は薄暗いのでそのことを不審に思う。寝ているのかもしれないと思い、そっと部屋に入り、部屋の中を確認する。しかし、絵梨佳の姿は見あたらない。トイレかもしれないと思い、部屋の電気を付ける。その時にテーブルの上に置いてある紙切れを見つけて、声を上げた。


「なっ……?!」


 その紙切れには一言だけ言葉が書かれていた。



『世話になったな!』



 その紙切れを見て、徳二が慌てて部屋を飛び出す。いつ部屋を出たのかは分からないが、もしかしたらまだ近くにいるかもしれない。そう思い、必死で探し回る。


(何処に行ったんだ……絵梨佳!!)


 心の中でそう叫びながら駆け回っていった。



「……透さん!あの人!!」


 奏が遠くにいるある人物に指を差して叫んだ。


「……あいつか?」


「はい!」


 奏が指を差した人物に透が誰かを確認する。


「あの!すみません!!」


 奏がその人物に走り寄って、声を掛けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る