16.


 冴子が金庫の中を見て声を上げる。


「空っぽ……?」


「なっ!!」


 金庫の中には何も入っていなかった。拓海も金庫の中が空っぽなことに驚きの声を上げる。


「おい!他にこの金庫の番号を知っているやつは誰だ?!」


 玄が叫ぶように言う。


「……俺と宮部だけだ」


 拓海が声を絞り出すように言う。


「さっき捕まえた連中の中にその男は?!」


 冴子が早口で捲し立てるように言う。


「……そういえば居なかった……」


 拓海が呆然としながらそう言葉を呟く。


「てことは、一人だけ金を持って逃亡したという事か……」


 紅蓮が苦々しく言葉を綴る。


「となると海外に逃亡する可能性が高いですね……。空港を張り込みましょう!」


 槙がそう言って更に言葉を綴る。


「ここから一番近いのは中部国際空港です!そこに捜査員を向かわせてください!」


 槙の言葉に玄が急いで電話を掛けて、空港に捜査員を向かわせる手配を行う。


「……冴子さん、ちょっといいですか?」


 透がそう言って、冴子にあるお願いをした。




「……さて、洗いざらい話してもらいましょうか……」


 あの後、署に戻り拓海の取り調べが行われた。冴子がいくつか職務質問を行うが、拓海は目を逸らし、何も話さない。


「もう全部抑えているのよ?いい加減観念して話してくれないかしら?」


 冴子がどこか呆れながらそう言葉を綴るが、拓海はかたくなに口を開かない。冴子はため息を吐き、一旦、取調室を出て廊下で待機している奏たちと合流する。


「参ったわね……。何も話さないわ……」


 冴子が奏たちにそう告げる。


「なんなら俺が力ずくで聞き出しましょうか?」


 紅蓮が言う。


「お前が出たら奴は余計に喋らんだろ」


 槙が淡々と言葉を吐く。


「あの……、私が事情聴取してはダメですか……?」


 奏がおずおずと片手を小さく上げながらそう言葉を綴った。




「特殊捜査員の水無月と言います。拓海さん、良かったら話をしてくれませんか?」


 奏が拓海と対面になる状態で座り、相手を委縮させないように優しい声でそう語りかける。しかし、拓海は目を逸らしたまま何も言葉を発しない。


「どうして詐欺をしたのですか?」


 奏がそう質問する。だが、やはり拓海は何も言わない。


「……これは私の推測ですが、拓海さんは過去に何かとても酷いことをされたのでしょうか?」


 奏がその言葉を語った瞬間、拓海の目が大きく見開く。


「やはり、そうなのですね……」


 拓海の身体が微かに震える。しかし、それでも拓海は頑として言葉を発しない。


 奏が取調室を出る。そして、廊下で待機している冴子たちに先程の事を話す。


「もしかしたら、表に出なかった事件があるのかもしれません……」


 奏がそう言葉を綴る。


 その時だった。


「おーい!容疑者の住処が分かったぞ!」


 玄が冴子たちを見つけてそう言いながらこちらへ向かってきた。


「容疑者の男なんだが……」


 そう言って玄がある事を話す。


「じゃあ、そっちで聞いてみましょう……」


 冴子がそう言葉を綴った。




「……あの、どちら様ですか?」


 インターフォンが鳴り、美香が玄関を開ける。するとそこには奏と冴子が立っていた。


「警察のものです。前橋まえばし 美香みかさんですね?」


 冴子と奏が警察手帳を見せながらそう言葉を綴った。



「……どうぞ」


 美香がそう言って、テーブルの上に奏と冴子の飲み物を置く。


「あの……、話ってもしかして拓海の事ですか……?」


 美香が恐る恐る聞く。


「……詐欺をしていたことを知っているのですか?」


 美香の言葉に冴子が言う。


「詐欺……?」


 美香が何のことか分からないというような顔をする。


「えぇ。拓海さんは詐欺グループの主犯格です……」


「拓海が詐欺をしていたってこと……?」


 冴子の言葉に美香が声を震わせながら言う。


「えぇ。美香さんはご存じなかったのですか……?」


「全く……。ただ……」


 冴子の言葉に美香がそう言葉を発する。


「ただ……何ですか?」


 奏が美香の言葉を聞き返す。その言葉に美香は言おうかどうか悩んでいたが、思い切って口を開いた。


「もしかしたら、悪いことをしているんじゃないかという想いはありました……。私には営業の仕事をしていると言っていましたが、その割には私服で出掛けていたし、帰りがすごく遅くなったり、休日も仕事だと言って出掛けることがよくあったんです……。それに……」


 美香がそこまで言って言葉を詰まらす。


「……何ですか?」


 冴子が訪ねる。


 そして、美香は大きく息を吐くと再び口を開いた。


「……私たちがまともな職に就けるのはまず無いと思ったんです……」


「どういうことですか……?」


 美香の言葉の意味がよく分からなくて奏が聞き返す。


「実は、私と拓海は――――」


 美香がそう言ってある話を始めた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る