17.
「……いい加減話したらどうなんだ?!」
取調室で玄が怒号を上げる。
拓海は誰が事情聴取しても黙秘を続けた。目を逸らし、「話す気はない」と言うオーラを醸し出している。拓海が詐欺をしていたことは明白なのだが、なぜそんな事をしたのかと言う問いには一切答えない。それに付け加え、なぜ深夜に翼の家に行き、放火をしようとしていたのかも全く話さない。状況証拠や物的証拠は揃っており、罪は免れることはできないが、このままでは事件の真相が全く分からない。
玄が怒りモードで困った顔をする。
その時だった……。
――――コンコンコン……。
取調室のドアがノックされて冴子と奏が入ってきた。
「玄さん、交代するわ」
冴子の言葉で玄が取調室を出ていく。
「さて……と……」
冴子がそう言って拓海と向かい合わせになるように座る。冴子の隣に椅子を持ってきて奏も腰を下ろした。拓海は相変わらず、そっぽを向いている。
「美香さんに会ってきたわ」
冴子がそう話を切り出す。その言葉に拓海の目が見開く。
「……美香は関係ない……」
拓海がようやく口を開き、低い声で唸るように言う。
「確かに、今回のことに美香さんは関係ないわ。でも、美香さんはあなたが悪いことをしているんじゃないかとうすうす感づいていたそうよ……」
「!!」
冴子の言葉に拓海が驚きの表情を見せる。
「それと、美香さんから聞いたわ……。あなたと美香さんの生い立ちを……」
「っ……」
冴子の言葉に拓海が憎しみの顔をする。
「私……美香さんからその話を聞いて悲しくなりました……。あんな……ことが無けれ……ば……あなたは……こんな事を……しなかったんじゃない……でしょうか……」
奏が話しながら途中で涙声になる。
「酷過ぎます……。虐待なんて……」
奏がそう言いながら涙を流す。
美香に聞いた話はこうだった。
拓海と美香は実の両親から虐待を受けており、いつ頃からか二人とも施設に送られた。その施設で拓海と美香は出会い、境遇が似ていることから仲良くなった。そして、拓海が十八歳になった時、施設の方針で社会に出るために一人暮らしをすることになり、その施設を出ていった。その時、美香と離れ離れになり、その後、美香も十八歳になった時に施設を出ることになり、一人暮らしを始めた。そして、今から約二年前に偶然再会して一緒に暮らすことになる……ということだった。
「……確かにあなたや美香さんの生い立ちは辛いものだと思うわ。でも、だからと言って詐欺をしていいというわけじゃないのよ?」
「……あんたらに俺たちの何が分かるって言うんだよ……」
拓海が憎しみを孕んだ声で言葉を綴る。
「……確かに私たちには分かりません……。拓海さんと美香さんの苦しみがどれほどのものなのか……。簡単に分かるとは言えません……。想像しかできません……。でも、おそらく私の想像以上の苦しみがお二人にはあるのだと思います……」
奏が泣きながらそう言葉を綴る。
「……あんたは俺たちの苦しみが『分からない』って、ちゃんと言うんだな……」
奏の話を聞いて拓海がそうぽつりと呟く。
「……ほとんどの奴らは『辛いのは分かるけど』って言われて、その言葉を言われるたんびにムカついた……。あんたらはそんな目に遭っていないだろ!って……。簡単に辛いのが分かるって言うんじゃねぇよ!って思った……。施設でもそうだった……。『辛いのは分かるけど……』『苦しいのは分かるけど……』。そんな事ばかり言われた……。俺や美香が受けた苦しみは俺たちしか分からない……」
拓海がポツリポツリと話し出す。そして……、
「……だから、そんな気持ち分かるはずないのにあんな事を言った翼が許せなかった……。だから……だから……俺は……」
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