6.


「その……突然声を掛けてすみません……。何かあったのですか?」


「えっと……君は……?」


 突然声を掛けられて翼が戸惑ったように言葉を綴る。


「その……、えっと……この公園にいただけです。その……ベンチに座っていたらあなたが辛そうな顔をしていたので大丈夫かなと思い声を掛けてしまいました……」


 奏の中で相手が委縮しないためにも警察官であることは伏せて翼にそう説明する。


「あの……、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」


 奏が心配そうにそう声を掛ける。よく見ると、翼の目には涙の痕がこびり付いている。きっと、さっきまで泣いていたのだろう。


「ちょっと、飲み物を買ってきますから待っていてください!」


 奏がそう言って近くの自販機で飲み物を買いに走る。少しして、飲み物を手に奏が翼のところに戻ってきた。


「よかったらどうぞ!」


 奏が微笑みながら飲み物を差し出す。少し冷えてきたのでホットのコーヒーを翼に渡した。


「あの……、お金……」


 翼が戸惑ったように言葉を綴る。


「大丈夫です!私が勝手にしたことなので気にしないでください。これを飲んで少し落ち着きませんか?」


「あ……ありがとう……」


 奏の気持ちに感謝しながら翼はコーヒーの蓋を開けて飲み始める。


 しばらくお互い無言のまま、翼の気持ちが落ち着くのを待つ。


「……少しは落ち着きましたか?」


「うん……。ありがとう。ちょっと落ち着いたよ」


「良かったです」


 翼の言葉に奏がホッとする。


「……あのさ、少し話をしていいかな?」


 翼が神妙な顔でそう言葉を綴った。




「……なにをやっているんだ?」


 離れた場所で透が奏の行動を見て頭にはてなマークを浮かべる。そして、急に奏がその場を離れて自販機に向かい、何かを買って男に渡していたところまでは分かったが、何を話しているのかが聞き取れない。しばらく、その様子を伺う。


 その時だった。


「透!そっちはどうだ?って、奏ちゃんは?」


 別で行動していた紅蓮と槙が公園に来て状況を聞く。しかし、その場に奏がいないので紅蓮が聞いてくる。


「……あそこ」


 透が奏のいる方向に指を向ける。


「あの男は?」


 奏の隣にいる男を見て槙が声を発する。


「俺もよく分からない……」


「「は?」」


 透の言葉に紅蓮と槙が唖然とした声を上げる。


「ところで、そっちはどうだったんだ?」


 透が紅蓮たちに聞く。


「まぁ、一人気になる奴がいたから尾行しようとしたんだけど、人ごみに紛れた時に見失ってな……。多分、あの映像の受け子の奴だとは思うんだがな……」


「てことは、あれを探しに来たってことか……」


 紅蓮の言葉に透がメモリースティックの事を言う。


「恐らくそうだろう。だが、あの男は恐らく下っ端だ。奴を今ここで捕まえたら本当の主犯格が逃げるんじゃないかと思って、とりあえず声を掛けるのは止めにしておいた」


 槙が淡々とそう語る。


「槙!それは俺が言った事だろ?!さり気にお前が言ったような言い方するんじゃねぇ!!」

「別にどっちが言っても変わらないだろ。肝っ玉の小さい奴だな」

「うるせぇ!透かしながら毒吐くんじゃねぇよ!!」

「本当の事だ」


 仲が良いのか悪いのか、紅蓮と槙の言い合いが続く。


「……おい、戻ってきたぞ」


 奏が男と別れてこちらに向かってくるのが見えたので、透が言葉を発する。


「すみません!急に!!あっ!紅蓮さん、槙さん、お疲れ様です!」


 奏が息を切らしながら言葉を綴る。


「いいよ♪それよりさっきの男は?」


 紅蓮がにこやかな笑顔で問いかける。


「その……、どうやら記憶を失っているみたいです……。なんか、記憶を取り戻す方法って無いのかなって言っていました……」


「記憶喪失ってわけか……」


 奏の言葉に透がそう言葉を綴る。


「その記憶喪失の男は今回の事件に関係ありそうなのか?」


 槙が言う。


「いえ……、関係ないと思います……。その……顔色が良くなかったので心配になって声を掛けました……。任務中にすみません……」


 奏がそう言って頭を下げる。


「放っておけなかったんだね。まぁ、奏ちゃんらしくていいんじゃない?」


 紅蓮が優しく言葉を綴る。


「とりあえず、いったん戻ろう。冴子さんの方で何か収穫があるかもしれないしな」


 透の言葉でみんなで警察署に戻っていった。




「おかえり♪何か収穫はあった?」


 特殊捜査室に戻ると、冴子がみんなを出迎えてくれた。紅蓮と槙が恐らく受け子だと思われる男が現場に戻って例のメモリースティックを探していたんじゃないかという事を話す。


「……ということは、これはやはりその詐欺グループが作成した騙す人のリストってわけね……」


 冴子がメモリースティックを眺めながらそう言葉を綴る。


「冴子さんの方は何か分かりましたか?」


 槙が冴子に聞く。


「えぇ♪収穫があったわよ♪掛け子のボイスレコーダーが手に入ったわ♪」


 冴子がそう微笑みながらメモリーディスクを掲げた。


「槙、さっそくよろしくね♪」


「了解です」


 冴子からメモリーディスクを受け取り、槙がパソコンを使ってその声や周りの音を鮮明にしていく。そして、解析が完了したのか、鮮明になった掛け子の音声をスピーカーで流した。


「あれ?この声……」


 奏がスピーカーから流れてくる音声を聞いて声を上げた。


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