7.


「奏ちゃん?」


 奏のふいに発した声に冴子が反応する。


「これ……、あの人の声に似ています……。喋り方も……」


「知ってる人?」


 奏の言葉に紅蓮がそう尋ねる。


「この声……、さっき私が公園で声を掛けた人の声とそっくりです……」


「「「え?!!!」」」


 奏の言葉に透たちが同時に声を出す。


「じゃあ、あの男が掛け子ってわけか……?」


「え?どういうこと?公園で声を掛けたって何??」


 冴子が奏たちの会話がよく分からなくて疑問の声を上げる。


 そして、冴子に先程の公園での出来事を冴子に説明した。



「……記憶喪失……ね……」


 冴子が話を聞いてそう言葉を漏らす。


「その男の名前や連絡先は分かるかしら?」


 冴子が奏に聞く。


「いえ、まさか関係しているとは思わなかったので何も分からないです……。ただ、その方の話だと、たまにあの公園には来ていると言っていました」


 奏が申し訳なさそうに言葉を綴る。


「……よし!しばらくは情報収集よ!紅蓮と槙はその受け子と思われる男がまた探しに現場に戻ってくる可能性があるからその男の正体を突き止めて!透と奏は掛け子かもしれないその男が公園に来た時に奏が再度接触していろいろ情報を聞き出す!透はその近くでその様子を監視していて!今日はもう遅いから明日からそれで行動するわよ!」


「「「はい!!!」」」



 冴子の言葉に奏たちが返事をする。


 こうして、奏と透は掛け子と思われる翼をマークすることになり、紅蓮と槙は受け子と思われる男をマークすることになった。




「ただいま~」


「おかえり、奏。お疲れ様」


 奏が家に帰ると、しずくが顔を出してきて労いの言葉を掛ける。


「もうすぐ夕飯だから、着替えてきたら?」


「はーい」


 奏は部屋に入ると、一息ついた。


「あ……そうだ……」


 部屋の一角に備え付けられている机。その上にはノートパソコンが置いてある。そのノートパソコンを起動して今日起こったことを記録していく。


(……あの人、何があったんだろう……)


 今日、公園で声を掛けた翼のことが脳裏に浮かぶ。あの表情は何かを思い詰めているようにも見えた。きっと、なにかあったに違いないと感じるもののずかずかと聞くわけにもいかずにその場を過ごしたが、まさか掛け子の可能性があるとは露にも思っていなかったので、もう少し話を聞くべきだったと後悔する。冴子が持ってきた録音されていた掛け子は、やはり、お金を取らずに大事にしてくださいとのことで終わっていた。もし、その声が奏が声を掛けた男ならやりたくないのにやらされている可能性は十分ある。


(脅されているとか……かな……?)


 そんな考えが脳裏をよぎっていった……。




「……見つからない?だと……?」


 ある一室で拓海がソファーに足を組んだ状態で座りながら苛立ちを隠さずに苦々しく言葉を吐く。


「す……すみません。探したんですがどこにもなくて……」


 男が怯えた様子で答える。


宮部みやべ……。後は任せたぞ……」


「はい、拓海さん」


 拓海が隣にいる宮部と呼んだ男にそれだけを言うと、宮部はそれで何のことか分かったのか、返事をする。拓海はソファーから立ち上がると部屋を出ていく。拓海が出ていくと部屋の中からは何かを破壊するような音が聞こえる。それと同時に聞こえる一人の男の悲鳴……。しばらくすると悲鳴は止み、静寂が流れる。


「……終わったみたいだな」


 拓海が部屋をすぐ出た近くでタバコを吸いながら呟いた。




「おはようございます!」


 奏が特殊捜査室に行くと、メンバーはもう全員が到着していた。


「おはよう、奏ちゃん♪今日はストライプのワンピースなのね♪可愛いわよ♪」


「あ……ありがとうございます」


 冴子に服装の事で褒められたのが奏には少し嬉しいのと恥ずかしいのが入り混じりながら顔を赤らめてお礼を言う。


「でも、奏ちゃんの格好って地味でもなければ派手でもなくて丁度いいよね。落ち着いた感じで相手に安心感を与えそうな感じがあるよ」


 紅蓮がそう言葉を綴る。


「まぁ、警察官って言う格好ではないけど、奏の場合は相手の心を汲み取って寄り添うことでもあるから丁度いいかもしれないな」


 透が得意の考察力でそう考察する。


「どっかの誰かさんは毎回カーゴズボンにヨレヨレのロンティーだしな」


「黙れ、ナンパ男」


 紅蓮の言葉に槙があまり興味なさそうに淡々と毒を吐く。


「俺を見習ってスーツを着てきたらどうなんだよ?」


 紅蓮が「フッ……」とバラを片手に持ちながら決め顔で言葉を綴る。傍から見たらそれはそれで警察官ではなくホストじゃないのかと突っ込みたくなるようなシーンだ。


「バカ男を見習う気はない。もし見習うなら透の方を見習う」

「なんだとぉ?!俺でも十分見習えるだろ?!」

「バカ男の真似をしたらバカが移りそうだ」

「バカバカ言うんじゃねぇよ!俺は最強の紅蓮様だぞ?!」

「自分で様を付ける時点でバカだよ。バカ殿」

「このカッコ良くてクールな俺様を馬鹿にするんじゃねぇ!!」

「お前のどこがクールでカッコイイんだ?アホ男」

「てめぇ~!!」


「はい!そこまで~!!」


 なかなか終わる気配がない紅蓮と槙の間に冴子が割り込み、強制的に言い合いを終了させる。


「さっ!今日は昨日言ったことに早速取り組んで頂戴♪何かあったらすぐに報告すること!じゃ!よろしく!!」


 こうして冴子の言葉で奏たちが捜査に向かった。




「拓海さん。昨夜、無事に捨ててきました。錘も付けたので浮き上がる事はありません」


 朝、ある一室にやってきた宮部が拓海に昨日のことを報告する。


「分かった」


 拓海がそれだけを言うと、その一室に集まっている人たちに向って声を張り上げた。


「いいか!ジジィやババァ共で金を持っているやつはろくな奴はいない!その金を俺たちが頂き、その金で自由を得るんだ!分かったな!!」


「「「はい!!!」」」


 拓海の言葉にその場にいる人たちが揃って声を上げる。


「おい、翼はどうした?」


 その人だかりの中に翼がいないことに気付き、拓海が近くにいる宮部に尋ねる。


「今日はまだ来ていませんね」


「ちっ……。今日から受け子をしろと言ってあったのに……」


 宮部の言葉に拓海が苛立ち交じりで言葉を綴る。そして、ポケットからスマートフォンを取り出し翼に電話した。



 ――――トゥルル……トゥルル……。



 コール音は鳴り響くが、翼がなかなか電話に出ない。


「……出ねぇな」


 拓海が苛立ったまま呟く。


「家まで行ってみますか?」


 宮部がそう提案する。


「……いや、それはいい……」


 拓海が苦い顔をしながらそう言葉を吐く。


「後でもう一度掛けてみる……」


 拓海はそう言うと、スマートフォンをポケットにしまい、その場にいる人たちに今日の段取りを話し始めた。




「……大丈夫?」


 年配の女性が心配そうに翼に声を掛けた。


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