第3話 記憶を取り戻してからの生活

 私が記憶を取り戻してからの生活は、子供を装わなければならず、思っていた以上に困難な日々であった。イェーリアは子供として振る舞うのが上手いのか、私をサポートしてくれる。


「ヴィヴァリク殿下、お食事の時間です」


 目の前に現れた老人が食事の時間だと告げる。老人は身なりの良い服装をしており、厳かな雰囲気を醸し出していた。

 老人はカルサヴァイトと言う名で、私の侍従である。彼が私の身の回りのことを差配しており、私に仕える者たちを管理していた。

 他にも、私に仕える者たちはいるのだが、何故か年寄りが多く、積極的には関わろうとしない。私に深く関わるのは乳母のカシーリアと侍従のカルサヴァイトぐらいである。


 私はカルサヴァイトに持ち上げられると、専用の席に着くと目の前には、子供用の離乳食の様なものが用意されていた。

 私の横にはイェーリアも座っており、イェーリアから先に食事を与えられる。カシーリアがイェーリアに与えた食事と同じ皿の料理を私が口にするのだ。

 要はイェーリアは私の毒見役を兼ねているのだろう。母親としてカシーリアは不安にならないのかと気になるが、王子の毒見役となれば断ることも出来ず、感情を飲み込まざるを得ないのかもしれない。

 カシーリアはイェーリアと私に黙々と食事を与え続ける。離乳食の様なものだからなのか、異世界だなのか、前世に比べると美味しいとは思えない食事ではあるが、食べざるを得ない。

 イェーリアも私と同じ様に黙々と食事を続け、食事が終わると昼寝の時間となる。イェーリアと同じ子供用のベッドに寝かし付けられるのだが、身体が子供だからか睡魔に抗うことは出来ず、眠りへと誘われるのであった。



「ヴィヴァリク殿下、散歩の時間にございます」


 昼寝の後は散歩の時間だ。記憶を取り戻した後、部屋の外へと散歩する様になった。

 城?の中をカシーリアか従者に抱かれて散策する。建物の中は何だか古めかしく、あまり手入れされている様には思えなかった。使用人も少ない様に思えてならない。

 庭に出て散歩をすることもあるのだが、あまり好きでは無かった。庭に出るための準備が面倒くさいのである。

 庭を出るためには着替えをしなければならないのだが、全身を覆う様な服装に加え、黒子が被る様な面布付きよ頭巾を被らなければならない。服の色は黒子の服装の様に黒では無く白いのだが。

 私が外に出るために着替えるのは、私の肌が弱いかららしい。私が記憶を取り戻す前に、屋外に出て太陽光に当たり、肌が荒れてしまったことがある様なのだ。

 それ以来、外に出ることは無かったが、離乳食を食べる様になったことで、厚着をすることで少しずつ外で散歩させる様になったらしい。


 着替えの最中に、太陽光で肌が荒れてしまうと注意されたことで、改めて自分の肌を目にすると、異様に肌が白い気がする。

 同じ子供のイェーリアよりも明らかに肌が白いし、乳母のカシーリアや侍従のカルサヴァイトと比べても白い。

 肌が白いと肌が弱いとは言われるので、そんなものなのだろうと思うことにした。


 こうして、記憶を取り戻してからの生活は穏やかに過ごしていく……と思われたが、そうはならなかった。

 まさかの大切な人との別れが訪れようとは思ってもみなかったのである。

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忌子王子に転生したけれど気ままに生きる 持是院少納言 @heinrich1870

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