第2話 もう一人の刻印持ち

 私に自我が芽生え、記憶を取り戻した時、目の前にいる彼女もまた「外ツ神の刻印」持ちであることを認識する。

 それは、記憶を取り戻したことで思い出した訳では無く、それより前の記憶にあったものであった。赤ん坊の頃から一緒にいる女の子……彼女の背中にも外ツ神の刻印がある。

 そして、彼女はいつの頃からか達観したかの様な目で私を観ていた。彼女は私より前に自我が芽生え、記憶を取り戻していたのだろう。


「ヴィヴァリク殿下、イェーリアがどうかされましたか?」


 私が同じ刻印持ちの女の子を見つめていると、不意に上から声がかかる。私が見上げた先には、目の前にいる女の子に似た女性の顔があった。

 私と同じ刻印を持つ女の子の名はイェーリアだ。取り戻した記憶と今までの記憶が混ざっていく。

 そして、私の名はヴィヴァリクであり、殿下と呼ばれている通り、この国の王子である。記憶が混ざり合うことで、違和感が段々と消えていく。


 私に声を掛けた女性はイェーリアの母親でカシーリアと言う。カシーリアは少し心配気な表情で私を見つめているが、イェーリアと同じ様な違和感を抱いたのかもしれない。

 カシーリアはイェーリアの様子が少しおかしいことを気にしていたが、イェーリアが転生だとして、自我の芽生えとともに記憶を取り戻したのであれば納得がいく。

 取り敢えずは、カシーリアを安心させねばならない。


「あしょぶ〜」


 子供らしく振る舞うのは難しい……。テキトウに誤魔化しの言葉を吐くと、私は目の前のイェーリアへと近付く。

 いざ、遊ぶと言ったものの子供らしくするとは、どうすれば良いものなのか分からない。

 僅かに悩んでいる間に、私はイェーリアの目の前へと辿り着いていた。すると、イェーリアは私に抱き着いてくる。その拍子に2人はそのまま倒れてしまった。

 倒れる拍子に、イェーリアは私の耳元で囁くのが聞こえる。


「あなたもめざめたのね」


 イェーリアは日本語で私に囁きかけたのであった。

 それ以降の記憶は無い……。久々に聞いた日本語に驚いたのか、外ツ神の刻印が安全装置としての機能でも発揮したのか、私は夢現の状態で過ごすこととなったのであった。


 数日、思考が朧気であったが、その間に転生した後の記憶と取り戻した記憶の整理整合が行われていた様だ。

 そのため、イェーリアやカシーリアたちと私の関係も明らかとなる。

 私は転生した後、カシーリアから乳を貰っていた。彼女は私を丁寧に扱い、殿下と呼ぶことから、乳母だと予想される。

 そして、イェーリアはカシーリアの娘であり、私にとっては乳兄弟にあたるのだろう。今のところ分かっているのは、イェーリアとカシーリアが私にとって最も身近な存在であることだ。

 他にも侍従や女中など、私の身の回りの世話をしてくれる者たちの記憶があり、顔と名前を一致させていく。


 しかし、私はあることに気付く。私が転生した後の記憶に父親と母親の顔と名前が無いことに……。

 両親が王であることは分かっているが、その記憶が無いとは、どういうことなのだろうと考えると、私は一抹の不安を覚えるのであった。


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