小説の主人公と作者の二重写し
- ★★★ Excellent!!!
包丁を扱ったことのない人物が、りんごの皮剥きに挑戦する。
言ってしまえば、それだけの話なのだ。
それだけの話の何がこんなに面白いのかというと、挑戦する本人にとっては大問題で、必死に取り組むその姿勢が面白いのだ。
この小説は7000字近くある。
りんごの皮剥きで6000字以上書いてください、と言われたら、私は正直かなり悩む。
おそらく、そうではないのだ。
りんごの皮剥きにひたむきに取り組む人物を描いた結果、たまたま7000字近い文章になっていたのだ(と想像します)。
この差は大きい。
小説なんて、依頼されて書く場合を除けば限りなく私的なもので(もちろん、読者もそれが好きで読むのだが)、何日も、何ヶ月も時間をかけて書くその情熱はどこから湧いてくるのか、と我ながら不思議な気持ちになる。
それでも当人にとっては、面白く書き上げねばならない大問題で、出来上がった作品は我が子のようにかわいい。
上記の点において、小説の主人公と作者が二重写しになる。
他人にとっては大したことないことでも、当人にとっては大問題なのだ。
是非、主人公と作者が、ひたむきに取り組むその姿勢を堪能していただきたい。