第21話 クリスマスデート④
魅了の魔力に呼応し、リリィの瞳が紫色に妖しく光る。白い肌が、月明かりに照らされて艶やかに輝く。男たちの視線は、吸い込まれるようにリリィへと向けられた。
「あ、あぁ……」
大柄な金髪男も、取り巻きの男たちも……。みんな脱力するように
「リリィ様……素敵です……」
リリィは金髪男に近づくと、彼の頭をぐりぐりと踏みつけた。
「いい? 凌から奪ったものを全て返して、さっさとここから立ち去りなさい! それと、もう二度とこんな悪いことはしないように。分かった!?」
「は、はい! もちろんです!」
不良たちは凌にお金を返すと、一目散にこの場から立ち去った――。
「凌、大丈夫? 怪我はない?」
リリィの声に反応して、凌がゆっくりと顔を上げる。……だが、どこか様子がおかしい。まるで魂が抜けたように、目がトロンとすわっている。
「あぁ、リリィ様……」
「……は?」
そう。リリィはついに、凌を完全に魅了することができたのだ。しかし――。
「大変! 髪を引っ張られすぎて、頭がおかしくなっちゃったのね!」
当のリリィは、大きな勘違いをしていた。凌の身体を揺さぶり、頬を引っ叩き、彼を正気に戻そうとする。
「ちょっと、凌!? しっかりしなさいよ!」
数分間、刺激を入れ続けた結果……。なんとか、凌を現実世界に引き戻すことができたのだった。
二人して地面に座り込み、夜空を見上げる。暗い裏路地から見える冬の星々は、一段と美しく輝いていた。
「……助けてくれて、ありがとう」
「いいわよ、別に」
「僕、昔からああいうのに絡まれやすいんだ。何でだろうね?」
「弱そうだからじゃない?」
「それはひどいなぁ……」
ははは……と、凌は苦笑いを浮かべている。その穏やかな表情を見て、リリィは小さくため息をつく。
……彼は弱く、そして優しい人間だ。だからこそ、自分を守る術がない。さっきみたいに、悪い奴らに簡単に傷つけられてしまう。
リリィが隣にいれば、今回みたいに守ってあげられる。守りたい。これから先も、ずっと……。
でも、それは叶わない。だって凌は人間で、リリィはサキュバスだから――。
「はっくしゅん!」
凌が大きなくしゃみをした。見ると、身体が小刻みに震えている。無理もない。今夜は氷点下近くまで冷え込んでおり、人間の凌にとっては厳しい寒さだ。
……守ってあげたい。
リリィは
「リリィ……?」
凌は驚いたように目を見開いていたが、リリィは一層強く手を握りしめた。そのまま指先に意識を集中する。すると不思議なことに、凌の冷え切った手が、身体が、少しずつ温もりを取り戻していくではないか。
「あ、温かい……」
「私の魔力を、あなたの身体に流し込んでいるの。……どう? 変な気分じゃない?」
「うん、すごくいい気分。まるでリリィと一つになってるみたい」
「へっ……変なこと言わないでよ! ばかっ!」
リリィは顔を赤らめながら、凌をキッと睨みつける。それでも、強く握った手は離さなかった――。
数分後。凌の身体が芯まで温まったところで、リリィはそっと手を離す。
「すごい……全身がぽかぽかする。ひと足先に春が来たような気分だよ」
「また寒くなってきたら言って。すぐに魔力を分けてあげるから」
「ありがとう!」
凌の嬉しそうな表情を見て、リリィの口元が思わず緩む。慌てて顔をそらすが、心の中から喜びが込み上げてくる。
そんな中、凌はショルダーバッグから何かを取り出した。
「お礼……ってわけじゃないんだけどさ。リリィに渡したいものがあるんだ」
「えっ……?」
何だろう……? リリィの胸が高鳴る。そして凌が手に持っているものを見て、目を大きく見開いた。
……こ、これは!?
「クリスマスプレゼントだよ。今日は一緒に過ごしてくれて、ありがとう」
凌の手のひらには、小さな白い箱が乗っていた。リリィは文献で読んだことがある。人間がプロポーズをするとき、この箱をパカっと開けるのだと。
そして、その中に入っているものといえば……!
「こ、婚約指輪……!?」
まだ箱を開けてもいないのに、リリィの頭の中では妄想が先走っていた。
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魔王様ごめんなさい!エリートサキュバスなのに、男子高校生を落とせません! 小夏てねか @teneka-0525
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