最終話 口無死村
それからの事は覚えていない 俺はいつの間にか山を下山していた
あの村での出来事は・・・あの小屋での出来事は全部夢だったのだろうか?
俺はそう一瞬考えたがあれは夢ではなかった
無意識のうちに慌てて逃げてきたんだろうな 荷物が全部なくなっていたし
手にはちからいっぱい ひもが引きちぎられたマスクが握られていた
^--------------------------
後日、俺はその出来事があってから二年か三年経ったあたりかな?再び 村を訪れることにしたんだ
でももう村はなくなっていた サバイバルゲームっての?俺はよく知らんがそういう遊びをした
若い奴らが焚火の後始末をするのを忘れてたらしくてな 山火事を起こしたんだよ
そして口無死村はその山火事で全焼してしまい 火事が起こったのが真夜中だというのもあって
村人全員その火事で死んじまった・・・
・・・?あっ?なに不思議そうな顔してんだ 編集者さんよ 確かに俺は「村人全員が死んだ」
とは言ったけどよ 呪いだの祟りで死んだとは一言も言ってねぇぞ
死んだのはただの事故だ まぁほとんど年寄りばっかの村と言うより過疎寸前の集落みたいなもんだったし
火事が起こったことにも気づかなかったんだろう
そしてな これは俺が後から 新聞を読んで知ったことだが 運よく焼け残った
俺が最後にあおの村で過ごした小屋が焼け残ったんだけどな
そこから見つかったんだよ
餓死して死んでいる 10歳くらいであろう子供の死体がな
--------------------
そうあの夜、俺を怯えさせた天井裏の怪異は
村人によって離れの小屋に監禁されて俺に助けを求める
子供の必至のSOS信号だったのさ
どうしたんだい?編集者さんそんな鳩が豆鉄砲食らったような顔をして
そう全ては俺の勘違いだったのさ
口無死様なんてものはいなかった
あの夜の体験は全て俺の勘違いだった それだけの話
今となっちゃ笑い話だ
幽霊の・・・正体みたり枯れ尾花だっけか?よく言ったもんだと思うぜ
怪異の正体なんてわかっちまえば そんなもんなのかもな
そこで一つ編集者さんに問題だ
1,必ずマスクをつけること
2,他所の人間を村に入れない事
3,村の外から出ない事
この3つの掟に
理由はわからないが離れで監禁されていた 謎の子供
これでなにか思い当た事、連想されるものってなにかないかい?
そう新型「ガロナウィルス」さ
世界中を巻き込み、世界に大打撃を与え、たくさんの人を死に追いやった あの悪魔のようなウィルスさ
マスクをつける、他の人間との接触は避ける、不用意な外出はしない
(感染した人を見つけたら隔離する)
・・・どうだい あの村で起こった出来事って新型ガロナの特徴 そっくりだと思わねぇかい?
「確かに・・・似てますね じゃあもしかして村の掟の意味って・・・」
「ああ、その通りだ 村に纏わる風土病だったんだろうな それを世の中に広めないために口無死様と言う作り話を作って
村人に堅く外出や他所の人間との接触を堅く禁じた」
こういう事ってさ よくあるんだよ あんたも子供の頃言われたことないかい?両親から
「あまり遅くまで起きてるとお化けが出るから早く寝なさい」ってさ
そういうレベルの子供だましだったんだよ
「新形ガロナが・・・1000年以上も前に日本に存在したというんですか・・・いや・・・まさか・・・」
伝承を調べるとそういう村とかよくあるんだ 大概これをやると祟りに会う、掟を守らないと祟り殺される
多分 ほとんど全部が村の都合を考えた 作り話だったんだろうな
怪談話ってのにはそういう側面での役割もあるってことだ
恐怖による束縛で人に約束事を守らせるという使い方もね
有名なとこで「口裂け女」という話があるだろう?
あの都市伝説とは子供が夜遅くまで不用意に外出しないようにと どこぞの親が作った怪談話が人々に伝わって広まったという説があるんだ
ここまで言えば俺がなにを言いたいかわかるだろう?編集者さん
「口無死様は 1000年以上前の人間がでっちあげた創作怪談なんだよ」
「創作怪談・・・だったんですか?口無死様は実際には実在しなかったと?」
「その通りさ それにあの村の怪異の真実は新型ガロナだという根拠はもう一つだけある」
新型ガロナって元々どういう経緯で人間に感染したのかって編集者さん知ってるかい?
「確か、元々 ネズミやこうもりなどの体内にしか生息していなかったウィルスがなにかしらの要因で人間に寄生し
そこから爆発的に世界に広まって・・・それでは・・・まさか!!」
「ああ、あの老人の語った怪談に 犬でも猫でもネズミでもなんでも食べる悪食の少女がいただろ」
(((その少女が感染源になったんだろうな))))
「恐らく、なんでも食べる悪食の少女がいたのも事実、そしてその少女を村人たちが暴行の末 殺害したのも実際にあった話しなんだろう
そして少女を暴行する際に 新型ガロナにかかっていた少女の流血を浴びた村人たちが感染、少女が死んだ翌日から村人たちに
新型ガロナが流行りだした・・・これが真相なんだろう 口無死様の祟りのな」
「いや、しかしですよ その当時の村人たちはそれが単なる病気だとわからなかったんですか?」
「馬鹿かおまえ これは1000年以上前の話だと言ってるだろう、当時の医療技術や知識なんてたかが知れてるし
ウィルスの存在など世界中の誰もが認識すらしてなかっただろう 祟りとしか思えなかったんだよ
それがガロナなどではなく 単なるインフルエンザみたいなもんでもな」
編集者は呆気に囚われている
「そう言われてしまえばそうですね、今では雷だって単なる放電現象だなんて小学生でも理解してることですが大昔の人にとっては
原因不明で祟りとしか思えない現象だった 雷の語源は」
神鳴く→神泣く→雷
と少しずつなまっていって最終的に雷になったという説がある
新型ガロナが実際には存在しない 口無死様の祟りや呪いだと当時の人が解釈したとしてもおかしくはないだろう
実際におかしくはない話である
しかしここで編集者は疑問に思ったことがあるようだ
「あれ?まぁ確かに興味深い話ではあるし なかなか面白かったとは思いますが
この話しを聞いたら明日にでも死ぬってどういうことだったんです?
だって口無死様は本当は実在しない ウィルスの感染を広めまいとする村人たちの作り話だったんですよね
それを聞いても 私が明日死ぬという話にならなくないですか?」
「その通りさ 編集者さん」
------------------------
実は今までの話は全て前振り ここからが本題なんだ
-----------------------
これは幻覚だろうか?
先程まで男の背後にはなにもいなかったはずだ
なのにいま 男の背中には男におぶさるような姿勢で男の背中に抱き着いている
--------------------
口を糸で縫い付けられた少女がいた
-------------------
「口無死様は実在しない、口無死様は創作怪談 じゃあ俺の背中に乗っているこいつって一体なんなんだろうな?」
編集者の薄ら笑いが凍り付く視線は俺の背中に注がれ少したりとも少女から目が離せないようだ
-----------------
ねぇ おじさんかじっていい?指一本だけでいいから食べてもいい?ねぇねぇ
ねえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
-----------
編集者は逃げようとした 俺はそれを声で制する
「編集者さん、俺がなんでこんな話をあんたにしにきたのかわかるかい?」
「・・・」
「こいつはね あの口無死村を訪れてからずっと俺に取り付いてる悪霊なんだが・・・」
---------------
口無死村の話を聞いた人間に移し替える事ができるんだよ
俺もなんでかは知らんがね
--------------
見るといつの間にか編集者の背後に口を糸で縫い付けられた少女が おんぶをするような格好で編集者に抱き着いている
俺はそれを見て安心した、無事に今回も移し替えることに成功したようだ
編集者は嫌だ厭だ離れろと暴れまわっているが無駄なことだ
そんなもんでそいつが背中から剥がれたら苦労はしない
背中から剥がれるときが来るとしたら 取り付かれた対象がその少女に骨一本残らず食われる時だけだ
「実を言うとな編集さん この話しをしたのあんたが初めてではないんだ
いままで何百人にこの話をしたか知らん、移し替えた対象が死んだりするとな
戻ってくるんだよ 俺のとこに だから俺はそいつを移し替えて俺の命を延命し続ける為に
あんたに口無死村の話をしたのさ」
もう編集者は聞いていないようだ、一心不乱に暴れまわりテーブルや椅子を蹴り倒しまくり
店員に取り押さえられている それでも編集者さんは暴れまわるのをやめない
「じゃあな。もう用事は済んだから俺は帰るわ 編集者さん
あっ、一つだけ警告しておくぞ 俺が話した話を信じるも信じないもお前次第だ
これが創作怪談だろうと判断しても実話怪談だと判断してもそれもお前の自由だ」
・・・
「けどな、腹が減ったら口無死様って一応呼んでる そいつはお前の事食いつくすぞ
今までの経験からすると制限時間は残り3時間・・・ってとこかな」
・・・
「じゃあな 編集者さん、達者で生きろよ」
そういうと男は喫茶店から出て行った
日本で起こる年間の行方不明者数は数十万人と言われている
その中のおよそ1%は口無死様と俺が呼んでいる
そいつの仕業なんだろうなぁって思ってる
なんといっても跡形もなくなるんだからな見つかりようがないだろう
------------------
僕は焼肉、ホラー雑誌の編集をしているものだ
僕は大急ぎでこの話を執筆している
誰か頼む この話しを早く読んでくれ
そしてSNSでもなんでもいい とにかく宣伝してはやく拡散してくれ
男の話では話をしないと 口無死様は乗り移らないという話だったが
文字で口無死村の話をしても 少女をあなたに移し替えることができる
そう一縷の望みをかけて いま この文章を急ぎで書いている
----------------------]
ブチッ
背後で一本の糸が切れる音がした
ブチッブチッ
背後で2本糸が切れる音がした
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
糸が全て切れる音がした
僕の頭上で 愛らしく可愛らしい少女が 僕の頭の上で大口を開けている
かわいらしい鈴のようなかわいい声が僕の頭上で響いた
「いただきます」
終わり
口無死村 @yakiniku1111111
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます