黄色いフォグランプを見ると

@8133akina

黄色いフォグランプ

車内に流れる1980オメガトライブ。

カルロストシキの発音の良い歌声と、運転席に座る彼のくぐもった声が合わさる。

モケットの座席は全ての音を吸収する。


エアコンの効かない車内だから、こんな寒い冬はコートを脱げない。

ガラス張りのお店に移る、白いセダンと黄色いフォグランプ。


彼の横顔を見るとまっすぐ前を見ている。

前はこの真剣な横顔が大好きだった。

細く長い指がハンドルを握っている。

爪の形が綺麗。


1860オメガトライブの曲が終わると次は徳永英明のレイニーブルーが流れる。


冬になり日が短くなって外は暗くなりはじめている。

ただ、ビルとビルの間からはうっすらとオレンジ色が見える。


徳永英明の切ない歌声に心が苦しい。

とくにこの曲は苦しい。

窓を空けるのは寒がりの彼が嫌がるだろうからと我慢する。


モケット素材の座席はいつも私に安心感を与えてくれる。少し埃っぽい匂いは懐かしさをくれる。


この車で杉山清貴&オメガトライブのライブに行くために都内から山梨まで走らせたこともある。

デートは基本的に彼が車でいろんな所に連れていってくれた。お台場、横浜、沼津、房総、秩父。

都内の彼の家から私の住む千葉県までの送り迎えも沢山沢山してくれた。


それも今日で最期だ。


この車に乗るのも、隣で彼の運転姿を見るのも、彼と会うのも。


何がいけなかったのだろう。

隣に座るこの男の子はどんな私を好きになってどこを嫌いになったのか。


きっとお互いに尽くしすぎてしまったのだ。

ずっと手を繋ぎすぎてしまった。

他の人の手の感触を忘れてしまうほどに。

どんなタイミングで手を繋いでキスをするのかが読めてしまうほどに長くいすぎた。


そろそろ、私の家が見えてくる。


「ここで、降ろして」

「えっ。まだおうちまで距離あるじゃん」

「あとは1人で歩いて帰りたいからさ。」


少し前だったら、絶対こんなところで降ろさなかっただろう。

心配性だから、私が1人で歩いて帰るなんて絶対許さなかった。


「歩くとき、気をつけて帰ってね、何かあったら、、、。電話、、、して」

迷いながら言うから思わず笑ってしまう。


「しないよ。でもありがとう。気をつけて帰るね。そっちも、帰り気をつけて」

「うん、ありがとう。」


シートベルトを外してドアを開ける。

ドアを開けるときの軋む音に涙がでるのをこらえる。


ドアを閉め、走り去る白いセダンを見送る。

風が冷たい。


エンジンオイルの匂いが鼻に残る。


またあの車で海に出掛けたい。

隣でシティーポップを聞きながら。

信号が赤になるたびにキスをしたい。


イヤフォンをつけ、レイニーブルーを流す。


一歩、踏み出す。


「免許、とろうかな!」


住宅街に響いた私の声は、寒空の下で消え去った。












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