第2話
出勤は光汰の方が遅いが帰宅は葉月の方が早い。結愛の保育園へのお迎えは葉月の役目で、光汰が帰宅すると、結愛が玄関まで迎えに来てくれる。
「おかえり、ぱぱ」
口のまわりにケチャップがたくさんついている。すんすんと嗅がなくても、リビングダイニングから夕食の匂いがした。
「ハンバーグ、たくさん食べた人~!」
問うと、元気に手を上げ「はーい」と返ってくる。
かわいい。肉体労働の仕事の疲れが吹き飛ぶ。俺の最推しはやっぱりゆあタンだと思う。
光汰は指で結愛の口周りを拭いて抱き上げ、浴室へ直行した。
保育園へ送ること、帰ってから自分が夕食を摂るまえに風呂に入れること、寝る時間まで遊んでやり、寝かしつけること。それが平日の光汰の育児だ。元々無趣味ではあったが、休日ともなれば結愛姫に二四時間を捧げる忠実なしもべとなる。
「……えっ? もう字を習い始めたの?」
風呂から上がり結愛の髪を乾かすと、光汰の夕食の時間となる。
ダイニングテーブルに着くと、保育園での様子が一番に会話に上がった。光汰は最近の早期教育とやらに感心しながら、ふわふわのハンバーグに箸を入れた。
結愛はケチャップのハンバーグだったが光汰はデミグラスのハンバーグだ。他の家庭を知らないから比較はできないが、忙しくても子供用とソースが分けられ、副菜のポテトサラダにはリンゴが入っている。
幼い頃に両親を亡くし、養護施設で育った光汰は、葉月と交際して初めてリンゴ入りポテトサラダを食べた。
単純だが、マッシュしたふわふわのジャガイモと、シャキシャキしたリンゴのハーモニーに感動を覚えながら、ああ、この人とこれからも一緒にいたいな、と胸を熱くし、プロポーズの際には、「リンゴ入りのポテトサラダを一生食べさせてほしい」とも付け加えた。
「そうなのよ。って言ってもお絵かきと変わらないけどね」
「いや、それでも凄いよ。でもほら、見ろよ。かなり字に近くない? ゆあタンは天才かも」
食事中だが中座し、寝そべりながら「字らしきもの」を熱心に書いている結愛の隣に並ぶ。
「うわ。ホントに天才だ。ゆあタン、「し」って書くの上手だねえ!」
「えへへ」
「ぱ、って書いてみて。ぱ」
ぱぱ、と書かせようとしているのは一目瞭然だ。
「光汰、いいから早く食べてよ、冷めちゃう」
葉月に注意を受けたが、ハンバーグが冷めても、結愛に「ぱ」「ぱ」と言いながら一緒にクレパスを持っていた光汰だった。
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