第24話
日本人民社会主義共和国(正式名称)の中央評議会議事録より抜粋
1918年6月5日、東京・赤坂旧宮殿、第一議事堂にて
出席者:
幸徳秋水(中央評議会議長)
片山潜(外務人民委員)
山川均(経済人民委員)
アレクセイ・イヴァノフ(ソビエト連邦特別顧問)
田中庄吉(農業代表)
大村清太郎(労働者代表)
中村中尉(軍事評議会代表)
釈円信(宗教評議会代表)
井上昇平(学生・知識人代表)
尾崎光子(文化委員)
ボリス・カラーニン少佐(軍事顧問、ソビエト派遣軍事専門家)
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会議は午後二時に始まった。灰色の空の下、旧帝国議事堂の荘厳な部屋には、革製の椅子に座した代表たちの重苦しい沈黙が漂う。最初に立ち上がったのは、議長たる幸徳秋水であった。
「諸君、本日の議題は一つ。われらが参戦中の大戦より撤退を決するや否やにある。」
幸徳はそう述べると、静かに席へ戻り、次に片山潜が外務人民委員として立ち上がった。
「同志諸君。東亜戦線に派兵せし帝国軍は未だ連合国の名の下に進軍せり。然しながら、此の戦争における日本人民の利益はいかなるや。今、革命の灯火が民衆の心に燃え、我が国を新たなる社会へと導く最中に、此の戦争に注ぐ資源と労力を費やし続けるは許されざる浪費に他ならず。故に、撤退の方針を提案する次第なり。」
片山が席に戻ると、農業代表の田中庄吉が即座に意を挟んだ。
「われら農民は戦争のための徴発に喘ぎつつある。畑を荒らされ、子を奪われる現状を終わらせねばならぬ。片山殿の提案に賛成なり。」
一方で、軍事代表の中村中尉は憤然として立ち上がった。
「戦場に在りし兵士たる諸君を如何に思ふか!撤退を命じられれば、国際社会に於いてわれらが侮られること必至なり。国防の礎を失ふ恐れあり。」
議場はざわついた。だが、冷静な声がその騒然たる空気を鎮めた。ソビエト派遣の顧問であるアレクセイ・イヴァノフが、悠然と立ち上がったのである。
「同志諸君、撤退は敗北にあらず。我々が目指すべきは、国内の社会主義体制の堅固なる基盤の構築であり、欧州の泥沼より速やかに脱するはその第一歩なり。革命は銃剣のみによるものならず。人民の信頼と支持こそが不可欠なり。」
彼の意見に多くの者が頷き、山川均がそれに追随した。
「イヴァノフ殿の申されし通り。経済状況を鑑みるに、戦争を続ける余力は皆無なり。これを転機とし、民衆の信を得る改革を進めるべし。」
最後に幸徳秋水が議論を総括した。
「諸君、此の決断は困難なる道なれど、われらが新国家を守るため必要なる一歩と信ず。人民の生活を守り、社会主義の基盤を固めるべく、撤退を決する。」
その後、全会一致で撤退が決議された。午後六時、会議は閉会し、高官たちはそれぞれの持ち場へと急ぎ、迅速なる撤退の実行に移った。
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種を蒔く人々 伊酉ふみ @yaiteka
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