第4話
ある仮説が頭をよぎるが、今ここで口にするべきではないと直感的に思った。
「……まあでも、今夜はゆっくり休んだ方がいい。お前さんの身の上は家族には話していないし、周りの事は気にせずくつろいでくれ……って言っても無理かもだが。取り敢えずこれ以上の話は明日にしよう。な?」
そう言って立ち去ろうとすると、アリシアは少し驚いた顔をした後にゆっくりと頷いた。
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……っ」
その言葉には、原作の彼女からは想像もできないほどの感謝の念が込められていた。
「……おやすみ」
俺はその言葉以上は何も言わず、静かに部屋を後にした。
自室へと戻った俺の頭には彼女の言葉と、そしてセシリアの存在。
(もし、あの主人公も俺と同じ転生者だとしたら?)
自分の知識を利用して、周りを都合よく動かした。そしてアリシアを排除したのでは?
馬鹿げた仮説だが、今の状況を説明するにはそれしか思い浮かばない。
「確かめる必要が、あるかも知れないな」
本当なら原作の主要人物に関わりたくないが、どうにも彼女の怯えた姿とそれに悔しさを滲ませたあの目。それになによりも……。
「ありがとう、ね。ここで引いたら、まともな人間じゃあ……やっぱり無くなるよな」
偶然でしか無いのに、助けた俺にあんなに感謝して……。
それを蔑ろには出来ない程度には、俺も良心ってものを持っていたらしい。
◇◇
今や王子の正式な婚約者となったセシリアだ。田舎貴族が大した理由もなしに簡単に会う事は出来ない。
「確か……原作ではエピローグで、学生寮から王都にある屋敷に移り住んだはずだ。タイミングが合えば、その時に接触できるかもしれない」
とはいえだ、相手が本当に転生者ならば、どこまで原作の知識が通用するかもわからない。
「それでもやるしかない」
その晩、俺は必死に計画を練って朝を迎える事になった。
◇◇◇
翌日、眠たい目をこすりながらも王都へと向かった俺は、セシリアの出入りする場所を静かに見張ることにする。
「恰好は地味目に仕上げた。センスの地味な田舎貴族はこういう時に便利だよな」
今後、こういう時など来ないだろうがな。
セシリアが現れる可能性が高いと言われる王宮近くの広場で、昼下がりの陽光に紛れて立ち止まる。
「やっぱり普通に歩いてるだけじゃ見つけられないか……」
だが、その時だ。
遠目に見覚えのある人物の姿が視界に入る、当然セシリアだ。彼女は侍女たちを引き連れ談笑しているようだ。
「どうやら、運が回ってきたな……!」
俺は彼女に近づくために目立たぬよう近づき、タイミングを待つ。
一瞬、こちらと目が合ったかのように感じたが、彼女は特に気に留めた様子もなく談笑を続けた。
「危なかった……って、よく考えたらお互いまともに顔を合わせた事も無い。俺が誰かなんてあっちは知らないじゃないか」
俺は意を決して、侍女たちが離れた瞬間を待ち続け……そしてその時は訪れた。
何か用があるのか、一人離れるセシリアのそばへと滑り込んだ。
「セシリア……ハートレイ様ですね?」
俺が転生したこの世界が乙女ゲーだと気づいたのは、目の前で婚約破棄される悪役令嬢を偶然見てしまってからだった~嵌められた彼女の為に本当の悪役令嬢を成敗しに行きます~ こまの ととと @nanashio
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