2話 露見
それから数日経った朝、突然、私の家の前に報道陣が大勢、待ち構えていた。
「鷺ノ宮さん、お聞かせください。100年以上も生きてるって本当なんですか?」
「なんのことですか?」
「週刊文朝の記事はご存じないのですか?」
「週刊文朝?」
「あなたが魔女だっていうことですよ。」
なんで、私の秘密を知ってるの?
報道陣が放つフラッシュライトの光が眩しくて前を見ることができない。
どうも、私が死ぬことがないことがばれたみたいだった。
テレビをつけると、そこでも私のことが話されていて、驚くべきことを言っていた。
いつも後ろから気配を感じていたのは、勘違いじゃなかったのね。
新聞記者が、私を狙って調べていたんだと思う。
銀座のクラブでの写真を撮り続けているうちに、歳をとらない私を発見したという。
30年も経っているのに、20歳ぐらいのままの風貌。
美魔女にしても限界はある。
しかも、名前はずっと鷺ノ宮 凛のまま。似た姉妹とかでもない。
年をとらない女性だという仮説にたどり着いたらしい。
よく調べていて、ほとんどが事実だったけど、普通の人はこんな話は信じないはず。
だから、私は、否定し続けた。でも、写真は公開され、追い詰められていったの。
毎日、テレビでは私が魔女だと報道され、道を歩いていても私への視線は険しくなった。
テレビ番組に呼ばれたこともある。そこで、私は、普通の女性なんだって叫んだわ。
そんな時、誰か知らない人が急に出てきて、私のことをナイフで刺したの。
苦しむ私を見て、間違いだった、刺した人は殺人をしたんだと誰もが思った。
でも、私の傷はすぐに消えていき、魔女であることを全国放送で証明してしまったの。
逆効果だった。
それ以降、魔女だ、魔女だと私を汚らわしいものと見る目が怖くなっていった。
私は、誰も傷つけていない。だから放っておいて。
私は、外にでるのも怖くなり、家に閉じこもった。
みんなが、化け物なんて死んでしまえと言っている。
でも、私も死にたいけど、死ねないのよ。
カーテンは締め切り、1日中、真っ暗な部屋で過ごしていた。
そう、私が愛した人たちは、みんな私から離れていった。
それは、私が死ぬことがない化け物で、変人で、汚いものだから。
私なんてこの世に生まれなければよかったのに。
どうして、こうなっちゃったのかしら。
死なないなんて、苦痛でしかないのに。
そんなことばかり考える日が続いたの。
そんな頃だった。
月に大きな隕石がぶつかり、その軌道が大きくずれるとの情報が入ったのは。
1年後に、月が地球に衝突するということらしい。
そんな報道のなかで世界では大暴動が起きていたけど、さすが日本の治安はよかった。
だからといって、警察はすでに機能していなかったの。
スーパーとかで食べ物を盗んでも誰も責めない。捕まることもない。
警察だけでなく、誰もが仕事をしようという気力を失っていた。
だって、あと1年後には死ぬんだから、今更仕事をして何を得ようとするの?
もう、誰もが絶望感にひしがれていたんだと思う。
自分の部屋で酒を浴びるように飲む人たちも増えていった。
でも、ある日、外を歩いていたら、急に人が駆け寄ってきて、私のお腹を刺したの。
目の前には1人の老婆がいた。
「息子のかたき。私の息子を奪った報いよ。」
「あなたは誰なの?」
「あなたの家族は、私の息子が起こした交通事故で亡くなった。それは謝るわ。でも、私から、息子とその家族を奪わなくてもいいでしょう。あなたも、罪を償いなさい。」
あの事件のことね。そんなこと忘れていた。
どうも、私の顔がTVに出て、私が犯人だと気付いたらしい。
「あれは、あなたの息子が私の大切なものを奪ったのだから当然の報い。飲酒運転だったんでしょう。あなたの息子が悪いんじゃないの。そのお返しをしただけ。あなたは、私に逆恨みをする筋合いはないのよ。」
「何言っているの。あなたは死ななくても、痛みは感じるようね。息子の痛みを感じなさい。」
老婆は、私のお腹に何度も包丁を刺してきた。
「痛いじゃないの、ババー。平民は私にひれ伏していればいいのよ。」
私は、これまで抑えてきたことを叫んでいた。
もう、自分を人前で飾るのは限界だった。
そして、同時に家族を奪われた恨みも再びこみ上げてきたの。
自分が汚いとさっきまで思ってた私なのに。
お腹から包丁を抜き、痛みを我慢しながら、老婆を道路に押さえつけた。
そして、無意識のうちに、その老婆を包丁で何回も刺していた。
血しぶきがあがり、私の顔は血で真っ赤に染まっていたの。憎しみの顔に。
「この女は魔女だ。」
この声はまたたくまに広がった。
私が外を歩くと、周りには誰もいなくなる。
そして、どこからか石とかが投げられてくる。
「今、石を投げたのは誰?」
振り返ると、誰もいない。
私のことはみんな嫌いだけど、誰もが私に怯えていた。
そして、警察の機能が崩壊した日本で、私が逮捕されることもなかった。
公安も超能力者の組織も、もう抗争は止めたみたい。
超能力者の組織は、過去に戻るという方針に切り替えたと聞いた。
時間を超える能力を持った人が、メンバーを必死に昔に連れて行っているとか。
私みたいに非協力的なメンバーはほったらかしにして。
というより、もう使い尽くしたと判断したんだと思う。
組織にお願いすれば、私も過去に戻れるのかもしれない。
でも、今更、組織にすがる気もなかったし、そもそも、もう生きるをやめたいの。
とは言っても、月が衝突するとこの地球、そして私はどうなるのかしら。
誰か、私のことを殺して欲しい。
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