第9章 滅亡へ

1話 夢

最近は、よく、昔一緒に暮らしていた朋美の夢をよく見る。

悲しくなるだけなのに、どうしてなのかしら。

今夜も、朋美が夢に出てきたの。

ただ、時代は今。夢だからか、すこし錯綜しているみたいだったわ。


朋美と、黒川温泉の旅館みたいな温泉宿の門をくぐり、部屋に通された。


「聞いてたとおり、素敵な所ね。さっき、4つの家族風呂があるって、言ってたじゃない。聞いたら、1つが外の風景が見えてきれいなんだけど、ずっと埋まってるんだって。だから、明日、朝7時に予約しちゃったけど、いいよね。」

「ありがとう。さっき、待合室でお茶と和菓子だされてボーっとしてたけど、その時に、そんなことしてくれていたのね。ありがとう。」

「ということで、これから10分後に予約してあって、休んで、次に30分と予約しちゃった。」

「そうなんだ。どんな感じか楽しみ。一緒に入ろう。」

「そうね。」


受付に鍵を取りに行って、私達は、雪が薄っすらと積もる道をとおり家族風呂に向った。


「朋美、思ったよりスタイルいいのね。着痩せするタイプなんだ。私なんて、バストが小さいのがコンプレックスだから、羨ましい。」

「そんなことないよ。凛はなんたって、とびっきりの美人だから、いつも、目立ってるじゃない。そういえば、あそこの毛、剃らないんだ。」


バストは明治生まれの女性だもの、そんなものよね。

戦後は食糧事情がよくなったから、バストも膨らむかと思ったけど限界があった。

子供の頃の食事が大きく影響してるんだと思う。


毛とかもそう。剃っても、すぐに生えてくる。

髪の毛も切ったことがない。

せめて束ねたり、ねじり編みをするぐらい。


「そうね。なんとなく、このまま。」

「剃った方が清潔らしいよ。まあ、好みだけど。」

「そうなんだよね。でも、剃り始めた頃は、ちくちく痛いとか聞くし。」

「それはそう。でも、最近は、エステで完全脱毛とかもあるよ。」

「いくら相手が女性でも、他人に見せるなんて恥ずかしいし。」

「じゃあ、少しはちくちくの期間があるのもしたがないね。そのうち、はえなくなると思うし。」

「少し考えてみる。」


家族風呂で一緒にいると、なんだか一緒に暮らしてるみたいで、とっても幸せだった。

日々のたわいもないことをいっぱい話し、大いに笑った。

女性の楽しい笑い声を外で聞いた人たちは、仲のいい女友達だと微笑ましかったと思う。


朋美は、露天風呂の岩に背をつけ、木々に雪が積もっている景色を私と一緒に見ていた。

笑い声も静かになったと思ったら、朋美は頭を私の肩にのせた。

私は、静かに朋美の手を握った。


ここには2人しかいない。

静かに、粉雪は舞う。

ずっと、この時間が続けばいいのに・・・。


その晩の夕食は素晴らしかった。

朋美と映えるねなんて言いながら何枚も写真を撮ったの。

朋美と一緒に写る写真。朋美は幸せそうに笑って、その横に私がいる。

この写真、大切にするね。


その晩、布団の中で、私達の話しは尽きなかった。


翌朝、外の風景が見えるもう一つの露天風呂に朋美と一緒に行ったの。

目の前は、木々が生い茂り、少し高台で、前はよく見えなかった。

音からすると、目の前に小川が流れているみたい。


目の前は、雪化粧の木々が広がり、その中の樽のような浴槽。

唯奈も私も、声を失い、二人で浴槽に入り、ただただ景色に見とれていた。

それだけなのに、私は、何も話さなくても幸せの一時を大切に過ごした。


目覚めた私は、目に大粒の涙をたたえていた。

朋美は私のもとから去っていった。

もう私の横にいないという事実が、夢のせいで逆に重くのしかかる。

もう、生きるのも疲れた。


数日後に、とんでもないことが起きることも知らずに、そんな甘いことを言っていた。

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