6話 許せない

彼とあの子を殺した車の運転手は、3年ぐらいで刑務所を出所したらしい。

どうして、私の大切なものを奪っても普通に暮らしていけるのと怒りが込み上げてきた。


私は、結構時間はかかったけど、ニュースの報道やSNS等から犯人を探し出したの。

犯人の自宅に行ってみると、会社はクビになったようだけど、家族と幸せに暮らしていた。

そんなの許されるわけがないじゃないの。


あなたは家族ともども殺さなければならないのよ。

でも、どうしたら、捕まらずに復讐ができるのかしら。

東京は、人がどこにでもいて、殺人は見つかりやすい。

今どき、監視カメラも各所にある。


私は、数日、犯人を尾行していた。

顔を見るだけで憎しみが溢れてくる。

その場で刺し殺そうとも思ったけど、やっとのことで踏みとどまった。


そして、ある計画が頭をよぎった。

マンションの通路側の窓は夏なので寝る時は空いていた。

そこからガソリンを注ぎ込み、火をつけたら、部屋は火の海になる。

それで、家族全員を殺せるはず。


ガソリンは、車から簡単に取り出せる。

私は、この家族が寝静まったころ、計画通りに火を放った。


「なんか、煙臭くないか?」

「そうね。何かしら。あれ、煙だらけ。何か燃えている。どうしよう。」

「ごほ、ごほ。」


中から声が聞こえてきたけど、その言葉を最後に声は聞こえなくなった。

おそらく煙で息ができなくなり、その場で倒れたに違いない。

奥さん、子供さんとともに。当然の報いね。


私は、見つからないように、平然とその場を去ることにした。

マスクをしていても感染症が蔓延している最中だから不自然ではない。

ステイホームで道に人もいない。

監視カメラに映らないよう、下を向いて普通に歩き、その場を去った。


警察、消防車が集まり鎮火をしたけど、明らかに殺人だという結論に至ったらしい。

そして、監視カメラに映った不審な女性が犯人ではないかと捜査は進められた。

その場を通りかかったタクシーのドライブレコーダーに女性の顔が写っていたらしい。

ただ、女性の顔は、マスクと帽子で、誰かとまでは特定はできなかった。


もちろん、被害者が交通事故で殺した人の奥様の復讐じゃないかという線で捜査は進んだ。

でも、交通事故の被害者と一緒に暮らしていた女性の特定に警察は行き詰まっていた。


この女性は誰だろうか。

一緒に暮らしてただけで結婚届とかはなく、戸籍とかが分からない。

資産は譲渡されたようだが、複数の外国の銀行などを経由してたどり着けない。

もしかしたら、仮想通貨などに変換されているのかもしれない。


死体の本人確認時に連絡した携帯番号はすでに解約されている。

携帯の住所も子供がいたマンションで、女性自身の住所は突き止められなかった。


交通事故で亡くなった人の自宅で、指紋が綿密に調査された。

犯罪履歴がある人のデータベースからは、合致する指紋はでてこなかった。


周りの聞き込みで似顔絵まではできたが、一般的な美人で特徴はない。

よくいる3人家族というイメージばかりで、明確に覚えている人はいなかった。

しかも、子供を公園に連れて行く以外、外出は少なかったので、見ている人も少ない。


都会は、人が多い分、その中に紛れ込み、存在感がなくなってしまう。

ごく普通で特徴がないほど、誰の記憶にも残らない。

その家族の中だけで生き続ける人ばかり。

かなり巧妙な手口で、プロの犯罪者ではないかと捜査関係者を悩ませた。


そして10年が経ち、年齢を重ねた似顔絵を出しても、一向に情報提供はなかった。

警察としては、3人も殺害した凶悪犯罪だったけど、未可決事件とせざるを得なかったの。

でも、世の中では、そんなこととは比較にならない、とんでもないことが起きていた。

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