5話 突然の事故

半年経ったころかしら、家で待っていたけど、いつまでも彼とあの子は帰ってこなかった。

どうしたのかしら。今日は、あの子が好きなハンバーグを作って待っているのに。

突然、スマホがけたたましく鳴った。


「あの、釘宮さんのお宅ですか?」

「ええ。どなたですか?」

「警察です。奥様でしょうか? おちついて聞いて下さいね。旦那様とお子様が、道路に飲酒運転で突っ込んできた車に轢かれ、お亡くなりになりました。」

「え・・・。」

「大丈夫ですか。恵比寿駅から10分ぐらいのところにある東京共済病院にご遺体があります。今、お越しいただきたいのですが、いかがですか?」

「すぐ行きます。」


私は動転しつつ、タクシーで病院に向かった。

20分ぐらい経ったころだろうか、目黒川沿いある10階建てぐらいの病院に着いた。

私が入るのを拒むように、冷たく建っている。


私が通された慰安室には、彼とあの子が動かず寝かされていた。

彼は体が潰され、首と足だけの状況だった。

娘を守って突き飛ばし、自分は塀の前で車を正面から受けたと聞いた。


あの子は、彼から突き飛ばされたものの、後から来た車に飛ばされたらしい。

頭を打って即死だったと警察は話していた。


今朝は2人とも笑っていたから信じることができない。

これまでいろいろな経験をしてきたけど、初めて人がいなくなって悲しかった。


どうして、私はいつも1人になってしまうのかしら。

あのかわいい娘も、顔は傷だらけで、動く気配もない。

ましてや、彼は本人かわからないような状況。


悲しいはずなのに、3人で過ごした楽しい時間が頭の中を巡っていた。

突然、私の肩を叩く人がいた。見ると、警察の人が心配そうに私を見つめている。

私は、無表情で立ち尽くしていたんだって。

5分以上、声をかけられても全く気づかず。


こんな時にはドラマとかでは泣き叫ぶのかもしれない。

でも、今の私には、ただただ信じられず、立ち尽くすことしかできなかった。

頭の中が真っ白で。


彼とあの子のお葬式が終わり、ご両親ともお会いした。

彼は、女性としての生活を強要されたことに反発してご両親と別居してたらしい。

子供を産んでいたことも知らなかった。

でも、最後はあなたと幸せに暮らしていたのねと深くお礼をされたの。


そして、彼は、どうしてか遺言書を書いていて、私に投資で稼いだお金をくれた。

自分がいなくなることを、なぜか予感していたのかもしれない。

そして、娘と一緒に今でも楽しく過ごしているような気がした。


私は、その後、数日は、彼とあの子と一緒に過ごした家にいた。

でも、思い出が多すぎて、家を出ることにしたの。

組織が用意してくれた東京のベイエリアのマンションに。

クラブ「フルムーン」に近い所。


そして、1人で部屋に閉じこもっていた。

1人であの親子がいない寂しさに押しつぶされそう。

でも、最近は、なんとかベットから起きれるようになった。

どんな悲しみも、時間が解決するのね。


今夜は、あの事故から初めて1人で居酒屋にでかけてみた。

1人で飲んでると、横のグループの話しが聞こえる。

会社で、課題を何百も洗い出し、真面目に一つひとつを解決しようとしているんだって。

そんなに真面目にしなくてもいいじゃないかって愚痴っていた。

人間って、環境によって幸せは大きく違っちゃうのね。


そして、それに合うか合わないかで苦労も大きく違う。

そんな悩みを誰もが抱えながら生きている。

私も疲れた。もう、そろそろ開放してもらえないかしら。

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