第8章 最後の幸せ
1話 気配
最近、街を歩くと気配を感じるのは気のせいかしら。
どうも、だれかにつけられているような。
最初に気づいたのは、クラブ「フルムーン」に行くとき。
銀座の街で後ろから誰かに見られている気がしたの。
でも、振り返っても不審者はいない。
そういえば、クラブ「フルムーン」でホステスやって、もう60年以上経つ。
私の容姿は20歳のまま。
明らかに化け物だけど、問題にはならない。
それは、ここで働くホステスはみんな超能力者だから。
人の心を読める超能力。
相手を信じさせる能力。
相手の好みに応じて容姿を変えることができる能力。
そんな中で、私は歳をとらないだけで、あまり特別なことはない。
あえていえば、華族出身で、昔は政治家等との接点は多かった。
でも、最近は、ほとんど、家系は役に立っていない。
お客も、政財界のトップで、大体は超能力者の敵。
だから、この店で不利な情報を盗まれ失脚する。
失脚した後にも通える程、安い店じゃない。
だから、同じお客が5年以上通うことはない。
だからだと思う。
私の容姿が変わらなくても、不審に思われることがないのは。
ここで働くホステス達は、決して幸せな人生を送ってるわけじゃない。
超能力を持ち、普通の人ができないことができる。
でも、それって、化け物じゃないかって悩んでる人が多い。
私は、その気持、よく分かる。
特殊な能力を持ったら、人より優位に立てると喜ぶと思うかもしれない。
でも、そんな簡単なことじゃない。
人の心が読める能力を持つ人は、人の醜さを知る。
他人の容姿になれる人は、自分の本当の姿がわからなくなってしまう。
時間を移動できる人は、今、ここにいることの必然性を疑ってしまう。
それぞれが苦悩し、悩んでいるの。
自分の能力について相談できる人がいないことが大きかもね。
だから、ここのホステスたちは、同じ境遇の人として肩を寄せ合って生きている。
昔は、超能力者が子供を生むと、体が溶けて死んじゃうこともあった。
私は、幸いに男性のことが好きになれず、子供はできなかったけど。
でも、最近は、その問題もなくなったとか。
だから、ここのホステス達も自由に恋愛している。
結婚して、子供がいる人もいる。
でも、自分の超能力についてパートナーに話せずに悩む人も多い。
やっぱり、人とは違う生き物だということに馴染めていない。
自分は化け物で、普通の人とは違う汚い生き物だと思う人が多い。
普通の人に、超能力が備わっただけだとは理解しているんだけど。
超能力者の敵とされる人々を排除してきたことへの罪悪感もある。
超能力者を守るためと言われ、組織の指示で動く。
ここに来るお客のほとんどは優しい普通の人。
そんな人を貶めることへの疑問を抱く日もある。
今夜も、何人ものお客が来て、笑いながら自分に不利な情報を残していく。
お店の前で、車にお客を乗せ、深々とお辞儀をしてお客を見送る。
そんな時、また、見られている気配を感じた。
たしかに、このお店、政財界のリーダーが集う特殊なお店。
しかも、その多くが失脚していく。
週刊誌の記者とかには格好の狩場なのかもしれないわね。
しかも、私は、何十年も容姿が変わらない。
写真を撮り続けていれば、おかしいことに気づくかもしれない。
気をつけないと。
メイクの仕方、髪型、ドレス、こういうものも定期的に変えよう。
私が一番輝く容姿はあるのだけれども。
そういえば、私は何をしたかったのだろう。
死ぬことがないから、将来の夢とか考えたこともなかった。
あえて言えば、普通の暮らしをしたかった。
でも、化け物である私に、そんな価値はない。
レズビアンだから、そもそも普通でもない。
子供を産み、家族を持つなんてこともできない。
私は、何を希望に生きていけばいいのかしら。
今夜も、どす黒い闇に包まれ、眠れない夜を過ごした。
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