9話 女性超能力者の暗殺

私は、超能力者の男性と付き合い初めていた。

内閣府に務める一郎への愛情を忘れるために。


「恵子、今日は寒いね。僕のダウンのポケットに手を入れなよ。暖かいよ。」

「うん。」


博は、私の手を握って、自分のポケットに手を入れた。


博の手を握って、博の心を知ることに不安はなくなっていたの。

だって、これまで博が悪いことなんて考えてたことないもの。

安心して、心を許せる。


しかも、お互いに超能力者だということも安心できることだった。

普通の人から見れば、私達は化け物だもの。


私が、この人と結婚し、子供を作り、暖かい家庭を作れたら、どんなに幸せだろう。

一軒家のお庭で子供が暖かい陽を浴びて遊び回り、それを博が笑顔で見守っている。

私が、お昼ご飯を作り、そろそろお昼にするわねなんて声をかけている。

そんな時が過ごせれば、どんなにいいだろう。


でも、私は整形したとはいえ、日本政府から逃げて追われている。

組織からの指示には逆らえない。

そんな人が、幸せな人生なんて夢をみてはいけないのかもしれない。


博は、私との結婚も考えてくれているの。

まだ、言ってくれていないけど、今年のクリスマスにはプロポーズもしようと。

男の子、女の子の子供と幸せに暮らすイメージをしっかりと持ってくれている。


どうすれば、そんな夢を実現できるのだろう。

組織の指示で活動していると、いつか政府の目につき、暗殺される可能性が高まる。

博も同じ。


では、組織には、そろそろ恩は返したんだから、自由にしてと言えばいいの?

だめだと思う。組織は、思っていた以上に怖い。

組織から抜けようとすると、知らぬ間に自殺などと偽装されて殺されたりしているらしい。

そんな恐怖で縛り付ける組織には持続性はないとは思う。でも政府も同じ。


博とは、初めて旅行に来ていたの。

博の車でドライブに行かないかって誘われて、箱根の温泉に来ていた。


冬の箱根は、木々の枝には葉はなく、寒々しい風景だった。

でも、博と一緒にいられる時間が楽しくて、とても暖かい風景にしか見えなかったわ。

やっぱり1人よりは、私は、誰かに守られている方が居心地がいい。


道路には、昨日、降った雪が積もっていて、光を浴びてキラキラと輝いていた。

このまま、汚いものを隠しておいてね。

私が化け物ということも、ずっと隠しておいてほしい。お願いだから。

少しだけでもいい。幸せな時間を消さないで。

 

博が予約をしてくれたホテルに着いた頃には、また雪が降り始めた。

車から降りると寒い。はく息は、真っ白になる。

手袋をして、かがみこみながらホテルのロビーに走っていった。


予約したスイートの部屋に入ると、窓側に家族温泉があったの。

大浴場にいかなくても、いつでも温泉に入れるサービスがついていた。

一緒にお風呂に入るのは恥ずかしかったのよ。

でも、博と一緒にいられる時間は1分でも大切にしたかった。


「雪が降ってきてきれいね。」

「ああ。やっぱり温泉というと雪だね。」

「明日の運転は気をつけてね。」

「大丈夫。雪の箱根は何回も車で来たことあるし。」

「そうなんだ。でも、こんな静かな風景の中で博と2人で過ごせるなんて、本当に幸せ。私、昔から、あまり周りの人に馴染めなくて1人で孤独な時間が長かったから、こんな幸せの時間が来るなんて思ってもいなかった。」

「僕もだ。恵子と会ったときから、恵子しか目に入ってこなかった。どうか、僕と結婚してもらいたい。」

「本当! 嬉しい。こういう日を待っていたの。ありがとう。」


私の目から、温泉に雫が1滴落ちた。やっと、私にも人並みの幸せが来るのね。

これまで、本当に苦労もしたし、嫌な思いもした。でも、これで、報われる。

組織に入っていても、博と一緒なら苦はない。


私は、外の雪景色を見ながら、博の肩に顔を傾けた。

そして、博は、私を大切に抱きしめ、唇を重ねてくれた。

そして、暖かい布団のなかで、博の腕に包まれ、心穏やかに眠りについた。


翌朝、障子から朝日が溢れ、横にある博の顔を見ながら目を覚ましたわ。

これからも、ずっと、博が横にいて朝を迎える日が続いてほしい。


雪はやみ、地面の雪が陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

私達の将来を称えるような、清々しい朝だった。


朝食を取り、博の車で帰りの道を走った。

そして、坂を下る時に、突然、ブレーキが効かないと博が言い始めたの。

気づいたときはもう遅かった。

私達の車は山の壁に激突し、炎に包まれた。

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