8話 追いかけてくる目線

気象を操る超能力を身につけた後、通勤の際に誰かに見られている気がする。

もちろん、電車とかに乗ってるときは周りに人がいるが、その時ではない。

見られているのを感じるのは、自宅の最寄りの駅を降りて、住宅地を歩いているときだ。


周りを見回しても、不審な姿はないが、誰かの気配を感じる。

鋭い視線、殺気が肌を刺し、鳥肌がたつ。

俺は、直感とか体の感覚は、人よりは鋭い方だと思う。

気のせいだろうか。あの社長に相談した方がいいんだろうか。


特に、自宅近辺の暗くて人通りが少ない道で、後ろに人の気配を感じる。

急に走ってみて、角に隠れ、追ってくる人がいないか確かめてみた。

でも、不審者がみつかるわけではない。

例えていえば、肩のすぐ後ろに目があり、俺の背中を刃物で突き刺すように浮いている。


これは公安に目をつけられたのかもしれない。

しばらく静かにしておくしかない。


一方、公安では、その頃、俺が超能力者だという確信があった。


「あいつは、あの病院で超能力を得たに違いない。あの病院では、超能力者を増やしていると情報が入っている。病院ごと爆発するのは、あの教会を爆破したチームにお願いすることにし、俺達は、あいつが超能力者だと確認したうえで殺すんだ。」

「あいつは、どんな超能力を持っているんだろうか。どうも、最近は、あいつの周りで異常気象が多いから、気象に関係することかもしれないな。」

「それじゃあ、なかなか尻尾を掴むのは難しいかもな。」

「むしろ、暴力団のふりをして追い込めば、逃げようと超能力を使うかもしれない。」

「やってみて損はないだろう。」


俺は、ある日、チンピラに囲まれた。俺をつけていたのは、コイツラだったんだ。


「金を出せ。お前、金を持っているようじゃないか。そんな高級時計をもっているし。」

「金なんて渡さないさ。」


俺は周りを見渡したが、誰もいない。これは、力を試すいい機会じゃないか。

俺は空を見上げ、周りで暴風が吹き始めた。雷がチンピラの1人に落ちた。

やっぱり、俺の能力は使える。


チンピラ達は何が起こったのか分からずに、仲間が倒れて逃げていったんだ。

ただ、それからも、俺をつける目線は消えなかった。

気のせいだったのだろうか。


一方で、自分の能力に自信が持てたせいか、俺を見下した奴らへの怒りがつのってきた。

俺を蔑んだ見返りを待ってろよ。後悔させてやる。

頭を床にこすりつけ、俺にお詫びをさせてやるんだ。


超能力者をリーダーに世界を組み替える、これには本当に賛成だ。

組織に入って良かったな。超能力もないやつらが、威張っているんじゃないよ。


それから、政府要職にいる人たちが、雷に打たれて亡くなるという事件が相次いだ。

1ヶ月の間に、8人もの要人がなくなり、政府では衝撃が走った。

雷でこんな短期間に、それも特定の人達が死ぬはずがない。

なんらかの殺人武器が使われたんじゃないかとまことしやかな噂が流れていたんだ。


でも、このことで俺は目立ってしまった。公安から目を付けられることに。

それなのに、俺は、自分の偉大な力を誇りに思い、気が緩んでいたんだ。


俺は、会社からの帰りに、夜道を歩きながら、自分が誇らしかった。

もうすぐ梅雨の季節だな。この時期が1年の中で一番、好きだ。

熱くも、寒くもなく、上着は不要で軽装ですむし、湿度もちょうどよくて爽やかだし。


まわりは住宅地で、どの家でも、家族が暖かい時間を過ごしているのだろう。

テーブルで家族が夕食とお酒を囲み、笑いながら、一日の疲れを癒やしているのだと思う。

窓から漏れる部屋からの光が、その光景を感じさせてくれる。


道端の電灯が、遠くまでつらなり、それ以外の不要なものは一切、暗闇によって見えない。だ

から、とても美しく見える。

俺の将来も、こんな風に、光に導かれ、期待している姿に向かっているのだと思う。

そうだ。これから、俺には明るい将来が待っている。


その時だった。ヘッドライトをつけていない車が突進してきた。

そして、俺は、後ろに大きく飛ばされた。

どうして、こんなときに車に轢かれてしまうのだろうか。

夜空に綺麗に光る星々が、少しずつ見えなくなっていった。


公安幹部間では、ミッションクリアとしてお酒が酌み交わされていた。


「教会に引き続き、病院の爆破も成功したな。しかも、病院で超能力を備えた1人の暗殺も成功した。これで、今、知られている超能力者の疑いがあるのはあと2人の女性と2名の男性だけだ。そいつらも、超能力者と確認でき次第、抹殺をすれば全滅できる。」

「内閣府の男性と付き合っている女性は、その男性と分かれたが、最近は、別の超能力者の男性と一緒に過ごしている。その女性は、組織とうまくやっていないようだが、男性に言われて組織の活動に加担するかもしれない。早く始末したほうがいい。」

「やっぱり、その他にも、まだいるかもな。ただ、俺達の暗殺について、その事実が全く表にでていないのはいいことだ。国民を不安にさせてはだめだからな。やはり、公安の力は絶対だな。」

「いや、本当に素晴らしい。俺達の力に乾杯だ。」

「乾杯。」

「他国でも、ほぼ一掃できたらしい。日本の責任は公安が果たさないとな。あと4人だが、もう暗殺は間近だ。」

「でも、人間じゃない奴らに支配されるなんて、考えただけでも恐ろしい。なんとしても阻止しないと。これからも、慎重に対応し、1人でも超能力者が残っていれば排除するぞ。」

「そのとおりだ。」


公安幹部は、病院から薬が闇ルートで流通してることを知らずに祝杯を上げていた。

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