7話 組織の復活

俺は、日本ではそこそこ名の知れたIT会社に務めるサラリーマン。

東大法学部は出ているが、高校のときからプログラミングが好きでIT会社に入ったんだ。

東大法学部を出たなら、弁護士、官僚、金融機関にいくべきじゃないのとよく言われた。

でも、ITへの興味が勝ったんだな。


でも、30歳ぐらいになると、同期が各界で活躍しているのに、自分はぱっとしない。

やっぱり失敗したかな。転職も考えるべきかもと少し暗くなっていた。

そんなときに、同じように民間企業に行った同期から飲みに誘われたんだ。


「光博、久しぶりだな。元気でやってるか。」

「ああ。幸一も元気だったか。」

「俺は、ある研究所で製薬の仕事をしてるんだ。」

「そうなんだ。給料は、いいのか?」

「とってもいいさ。お前はどうだ?」

「悪くはないんだが、出世で東大卒というのが関係なくて、あまりパットしていないんだよな。でも、元気そうでよかったよ。なんか、大学を出たあとに、幸一が苦労してるって聞いてたから、心配していたんだ。」

「ありがとう。ところで、うちの社長が光博に会いたいって言ってるんだけど、難しいかな。」

「何の用かわからないけど。引き抜きとか?」

「そういうんじゃないんだけど。まあ、会って、話を聞いてみてよ。よかった。じゃあ、日程調整させてもらうね。」


そして、1ヶ月後に、その社長と会った。

びっくりしたが、20代のアメリカ人男性で、こんな若造が年収何百億円の社長だという。

しかも、話したことは、最近のグローバルでの新しいビジネスモデル等についてだった。

俺は正直、この若い社長の明晰な頭脳についていけなかった。


最後に、今、研究している薬の治験者になってくれないかという。

動物実験では十分に実績があり、人体でもかなりの数で安全性は確認されているとか。

あとは、どのような特質の人に効果が最もでるのかを調べていると言っていた。


「効果とはどんなことなんですか?」

「世間では超能力とかいうんですかね。人の心を読めるとか。」

「そんなことがあり得るんですか。そうだったら、社長が試せばいいじゃないですか?」

「もちろん、試したんですよ。でも、特に何も起こらなかった。あなたの血液はAB型rh−型と聞いて、それがキーじゃないかと思って、今日、お願いしたんです。」

「治験を受けると、俺にはどんなメリットがあるんですか?」

「治験を受けるだけで200万円渡しましょう。治験には1ヶ月の入院をしてもらうので、その休業手当としても十分でしょう。会社には交通事故と言っておいてください。ギブスとか、それなりの演技ができるよう図らいます。もちろん、入院費、その期間の食事等はすべてこちらが負担します。そして、効果があれば、1,000万円を追加でお渡しします。特に副作用もないと検証できているので、あなたに断る理由は一つもないと思いますが。」


幸一は正直者だから、その誘いなら嘘ではなさそうだ。

先方の負担は大きいが、薬が売れれば取り返せるのだろう。

大富豪とかは欲しがるだろうし。

俺は、現状をいかなる方法でも打開したくて、その誘いに乗ることにした。


俺は、言われる通り、会社に交通事故になったと報告し、1ヶ月の休みを取った。

思ったより薬は小さく、1錠飲むだけだったのは拍子抜けだったな。

すごい装置で、複雑なカテーテルなどで薬を入れると思っていたのに。


翌日から、血液検査、心拍検査などが続いた。

俺には友達とかいないから交通事故のフリは不要とは伝えていたから自由に過ごした。

ただ、1回だけ、会社の人事部から確認がきたので、足にギブスをハメて吊った。


3週間ぐらい経った頃、TVで、今年の夏は干ばつで農作物が大打撃だと言っていた。

俺は、大雨でも降ればと思い、空を見ると、積乱雲が大雨を連れてきた。

また、雲一つもない夜空をみて、雷がなればきれいだろうなと思ったら雷がなり始めた。

そんな頃、あの社長から呼ばれたんだ。


「お疲れさまでした。素晴らしい能力が備わりましたね。」

「え、そうなんですか? 人の考えていることとか読める感じはしませんが。」

「超能力は人によって違うんです。あなたの超能力は気象を操る能力です。雨を降らすということに加えて、戦闘のときとかに相手を撹乱したり、攻撃したりするのにとても効果が発揮できると思います。」

「たしかに、雨や雷があればと念じて、そのとおりになったことはありましたが、偶然だと思っていました。どうして、分かったんですか?」

「実は、私も超能力者で、他人が考えていることが読めるんです。あなたが念じ、その直後にそのことが起きたことを10回以上、目にして確信しました。窓から外を見てください。今、晴れわたっていますが、ここに大雨を降らしてみてください。」


俺は、言われたとおり試してみることにした。

頭の中で、大雨のイメージを引っ張るような感覚だろうか。

その直後、この病院は大雨に包まれた。たしかに俺には能力がある。


「ありがとうございます。すごい薬ですね。大成功をお祝いします。では、私の役割は終わりですね。退院します。」

「いや、お願いがあるんです。全世界には300人ぐらい超能力者がいるんですが、日本には20人いました。ただ、日本政府は超能力者に脅威を感じ、すべて抹殺しようとしています。アメリカも同じです。しかも、日本では、超能力者が集まった結婚式が爆破され、20人のうち15人が殺害されてしまいました。そこで、この薬により、まずは超能力者としての仲間を増やそうとしたんです。」

「それで私に仲間になれと?」

「そうなんです。最近、概ね分かってきたんですが、この薬で超能力を獲得できるのは、脳の力が一定以上である必要があるんです。実は、血液は関係ありません。その意味で、あなたの友達も超能力者で、その紹介であなたに白羽の矢をたてたわけです。ただ、政府は超能力者を抹殺しようとしているので、公務員とかは候補者としては避けました。」

「だいたい、わかりました。でも、どうして私は気象を操る超能力なんですか?」

「それはまだ分かっていません。人によって、いろいろな超能力があるんです。」

「そうですか。それで仲間になって、私に何をさせようとしてるんですか?」

「それはまだ考えていません。まずは大幅に減少させられた超能力者をまずは増やすことから考えています。将来的には、世界を超能力者中心にまわすようにしたいと考えていて、既存の抵抗勢力との戦いになったときには、そこに参加いただきたいと思います。」

「私は平和主義で、戦いは避けたいのですが。断ったらどうなるんですか?」

「我々の存在を知った以上、死んでもらうしかないです。ただ、我々が殺さなくても、政府から抹殺されますよ。いずれにしても、あなたは生き残るすべは、我々の組織に参加するしかないですね。」

「そんなこと知らなかった。騙したということなんですね。」

「そんな悲観しないでくださいよ。素晴らしい能力を持てたんだし、今後は、能力もない平凡な人を支配する世界のリーダーになれるんですよ。あなたが期待していたことじゃないですか。」

「私の心を読んでるんでしたね。わかりました。仲間になりますよ。」

「まずは、ごく平凡にお過ごしください。バレると政府から刺客が放たれますから。そして、いずれご連絡しますので、その時にはご協力ください。それまでの生活費として、お約束どおり1,000万円をお渡しします。周りには、交通事故の損害賠償だと言っておけばいいでしょう。」

「わかりました。少しは、楽しそうな生活ができますね。今後、よろしくお願いします。」


俺は、退院して空を見上げた。

日差しが降り注ぐ中で、明るい将来が見えたような気がした。

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