第7章 抗争の激化
1話 爆破
「逃げろ。」
なにが起きたの? さっきまで、教会で聡子の結婚式にでてたわよね。
聡子は、夜、クラブ「フルムーン」で一緒に働いている同僚。
そして、昼には、同じ会社の秘書室でも同僚として一緒に働いている。
1日で一番長く一緒にいる女性。
たしか、新婦入場があって、神父が・・・。よく思い出せない。
砂埃で前が見えないし、耳も、中でキーンと響いていて、よく聞こえない。
そう、さっき、爆発のような音がきこえ、強い熱風を受けた。
私は、後ろの方の席で、席の背もたれに叩きつけられたけど、大きな怪我はない。
バラバラになっても、私の体は元に戻っちゃうから心配はないけど。
さっきまで指輪の交換をしていたところが見えてきた。
真っ黒なウェディングドレスを着た聡子が床に倒れている。
新郎の頭には、コンクリートの大きなブロックが落ちていた。
2人とも生きているようには見えない。
神父の後ろで素敵に光を放っていたステンドグラスのガラスが床に散乱している。
壁も崩れ、後ろのビル群が見える。
天井も床に落ちて、空もみえていた。
私達、超能力者は、最近、狙われている。
超能力者の組織の動きが加速してきたから、暗殺も容赦ない状況になってきた。
今回殺された聡子も超能力者。
組織は、政府に自分たちの存在を伝え、自分たちを政府のトップに据えろと主張している。
ただ、政府も、そんな主張にすんなり従うはずがない。
だから、政府は組織のメンバーを洗い出し、密かに暗殺を始めた。
政府なのに、陰で、そんな違法なことを堂々とやるなんて信じられない。
私は、積極的に組織に関与していなかったので、まだ政府から目をつけられていないはず。
でも、聡子は、少し派手に活動しすぎたんだと思う。
私は死なないけど、永遠に牢獄に入れられたら苦しい。
だから、目立たず、ひっそりと暮らすのが一番よね。
そんなことを考えて立ちつくしていたら、ふと、肩をたたかれて我に返った。
ランニングウェアを着た、背が高い女性が私のことを心配そうに見つめていたの。
「ねえ、大丈夫?」
「少し痛いところもあるけど、目立った怪我もないみたい。大丈夫。ありがとう。」
「まずは、外に出ましょう。」
前列にすわっていた人たちは、ほとんどが床に倒れて全く動けないようにみえた。
後列にすわっていた人たちの中で半分ぐらいは、なんとか自力で歩けるみたい。
そういう人たちは外にでて、救急車を待っていた。
私は新婦の友人として前列に座るはずだったの。
でも、次の用事もあり、出て行きやすいよう後列に座っていて、それが幸いした。
バラバラの体がくっついて、歩き始めたら、超能力者だとバレてしまう。
外に茂る木々は、新緑の葉が生き生きと成長していて、生命力を感じた。
一方、本来は白いはずの壁は崩れ、灰色のコンクリートがむき出しになっている。
教会の姿は非常にアンバランスな感じのする風景だった。
「何が起こったのかしら?」
「よくわからないけど、爆弾が爆発したみたいね。テロとかじゃないかしら。」
周りの人たちも、何が起きたのか理解できていなかったみたい。
でも、私は、政府が仕掛けたものだと悟った。
超能力者の結婚ということで、超能力者は多く出席していた。しかも前列に多く。
だから、公安は、この爆破で大勢の超能力者の排除に成功したに違いない。
「あなたは新婦の友達?」
「ええ。」
「新婦はかわいそうね。でも、あなたは怪我とかなさそうで、本当によかったわ。」
「あなたは、怪我してないようだけど、結婚式に参列してたの? でも、服装は結婚式っていう感じじゃないけど。」
「偶然、近くを通りかかっただけなの。でも、爆発の音が聞こえて、なにが起きたのか見にきたんだけど、とんでもないことが起きていて。」
「そうなのね。」
「怪我はなくても、念の為、病院に行って、診てもらったほうがいいわよ。一緒にいきましょう。」
「いえ、怪我1つもなさそうだし、大丈夫。もっと、深刻な人がいそうだし。」
「そこまで言うならいいけど。でも、なにかの縁だから、服も切れたりしているし、ご自宅まで、近くに停めている私の車で送っていくわよ。」
「そこまでしてもらうのは悪いわわ。タクシーで帰る。今日は、どうも、ありがとう。」
「じゃあ、私のLINEのIDをこのメモに書い渡しておくので、なにか不安なこととか、相談したいことがあれば、連絡してね。」
「ありがとう。じゃあ、ここで失礼するわね。」
私が超能力者じゃないかと調べているかもしれないし、不用心に心を開けない。
でも、数日後に、家の近くで声をかけられた。
「あれ、この前の人じゃない。無事のようね。良かったわね。」
「あのときは親切にしてくれて、ありがとう。」
「いえ、何もしてないし。でも、せっかく再会したんだから、この近くの居酒屋に一緒に行こうよ。」
まだ、私のことを疑っている可能性が高い。
そうじゃないと偶然に再会なんてしないでしょう。
断りつづけるよりは、他愛もない話をして、疑いを解いた方がいいかも。
「じゃあ、女子会しましょうか。今更だけど、私は鷺ノ宮 凛。凛と呼んで。」
「そういえば、名前を言ってなかったわね。私は、今川 琴音。」
「琴音ね。よろしく。」
私は、飲みながら、職場の愚痴とかずっと話し、つまらない普通の女性社員を演じた。
琴音は、そんな私を微笑みながら、ずっと暖かく聞いている。
そんな私を見て、疑いは晴れたみたいね。
私の話しをずっと聞いていて、それ以上のことはない。
むしろ、明日には私の話しなんて覚えていないぐらい酔っ払ってきたみたい。
ろれつがまわらなくなっている。
ただ飲みたかっただけ?
飲みながら話しているうちに、私の警戒心は薄れていった。
あの時は、爆破事件で動揺していたのか、あまり記憶がなかった。
でも、今日、再び見た彼女は、とても素敵に見えたの。
背が高くて、服装も、いまどきのおしゃれな感じ。
雑誌の表紙に出てるモデルさん?
結構、もてるんだろうなって思っちゃった。
1時間半ぐらいで、琴音がだいぶ酔っ払ってきたので、私から帰ろうと言い出した。
「今日は、ありがとうね。美味しいお店だったわ。でも、よく、こんな知らない人と一緒に飲んだりしているの?」
「そんなことないのよ。凛がなんとなく気になったから。」
「私は、どこにでもいる、取り柄がない普通の女性でしょう。」
「そんなことないわよ。まず、美人だし。」
「琴音だって美人じゃない。」
「私も美人って言ってくれるの? ありがとう〜。」
「でも、女性から美人って言われると、なんか複雑な感じ。美人かは置いておいて、普通は美人だと思うといじめる感じだけど。」
「そうかな。私はなんとなく、男性よりも女性と一緒にいる方が落ち着くし、美人とだと楽しいよ。というより、酔っ払ったから本当のことを言うと、私、女性が好きなの。」
「ちょっと、声が大きいよ。みんな驚いてるじゃないの。でも、そうなんだ。」
「こんな私のこと嫌いになっちゃう?」
「そんなことない。また、酔ってないときに話せたらいいね。」
「じゃあ、また時々会おうよ。」
もう歩けそうもない琴音をタクシーに乗せて、私は帰路についた。
私のことを調査していないんだったら、休日とかに一緒に過ごすのはいいかも。
その時は、まだ琴音の正体が何かを知らなかった。
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