4話 朋美との再会

私は、雪が降る東京が好き。

大正の頃のように寒々しい風景ではなく、ビル群の煌々とした光の中を雪が舞う。

そして、薄っすらと地面を雪が覆うと、汚いものもすべて消してくれる。

汚らわしい私も、清めてくれそう。


私は夏よりも冬が好き。

寒い空気を吸い込むと、頭は冴え、荘厳な雰囲気になれる。

夏は、仲間で汗だくになって騒ぐような雰囲気があり、私には向かない。


そういえば、人は、自分が生まれた月が好きだとか。

私の誕生日が2月だということにも関係しているのかもね。

まあ、そんなこと関係ないか。美しいこの風景が好きなだけ。


今日の天気予報で東京に雪が降り、5cmぐらい積もるって言っていたわね。

雪が舞う六本木を歩き、高いビル群を見上げていた。

そして、雪で電車に影響がでると困ると急に現実的になり、帰路についたの。


その時だった。横断歩道の先に朋美がいる。私の時間は止まった。

私から去っていった朋美が目の前にいる。

私は、思わず、朋美に向かって走り出していた。


これって、日々悲しい思いをしている私への神様からのご褒美なの?

今、声を掛ければ、再び、昔のような関係に戻れる可能性はゼロじゃない。

それが無理でも、今、5分でも朋美の声を聞きたい。私が愛した人。


もしかしたら、子供を産んだから、もう女性と付き合っても神様は怒らない?

そう思って、私のところに帰ってきたのかしら。そうかもしれない。


1人で歩く朋美は真っ赤なワンピースに包まれていた。

すらっとしつつ、魅力的なスタイル。

一面の花畑の中で、一輪、鮮やかに咲いた薔薇のよう。


風に髪がたなびき、ぷっくりとした唇が存在感を増す。

整った鼻筋も、相変わらず日本人離れしているわね。歩き方もモデルみたい。

あの大好きな朋美がすぐそばにいる。


私の高なる心は、もう止められない。

顔から、笑顔が溢れていたんだと思う。

ハイヒールなんて壊れていい。

走りづらいことなんて、頭のどこにも感じていなかった。


走り出した私に何人かぶつかったけど、私の目には誰も見えなかった。

ビルや周りの飲食店から漏れる光が朋美を中心に渦を巻き始める。

その光は朋美をライトアップし、朋美はより美しく輝いている。


粉雪もが朋美の周りに集まり、朋美を愛でるよう。

そう、朋美は美しかった。そして、心も清らかだった。

私と別れたのは、不幸な事故のせい。

だって、私達の絆は強かったもの。


朋美も気づいてくれた。私に微笑みかけ、手を振っている。

そう、私への気持ちは続いていたのね。

もしかしたら、私と再び付き合いたいとか。

今日は、私がここにいることを知っていて、会いに来てくれたのかも。


期待しすぎとは思いつつ、もしかしたらという気持ちを抑えられなかった。

だって、そうじゃなければ、私に手を振ってくれるはずがない。

あれだけ悲しい別れをしたんだから。


でも、朋美に手が届くぐらい近づいた時に、その女性は朋美ではないことに気づいたの。

これは、超能力者。私の気持ちを弄ぶなんてひどい。


「あなたは朋美じゃないわね。超能力者。どうして朋美になりすましたの?」

「やっと気づいたのかよ。おまえは、最近、女にうつつを抜かして、組織からの指示を無視しているだろう。だから、組織から、日頃は自由にしていていいが、指示を出した時は、それに従うように心を入れ替えさせろって伝えるよう言われたんだよ。おまえは、朋美という女性に未練があるから、その姿をすれば、お前の方から近づいてくるとも言ってたから、容姿をその女にしたってわけさ。ただ、女の体になって、外を歩くのは初めてだが、恥ずかしいものだな。」

「そういうことだったの。ひどいわ。私の朋美に対する気持ちを利用するなんて。」

「組織なんて、そんなもんだよ。逆に、指示に従わなくても殺されず、上に気に入られているのは、すごいと思うけど。だから、心を入れ替えろよ。それでも断るというなら、組織は朋美を放おっておかないと思うけどな。」

「それはやめて。わかったわよ。今後は、指示に従うから。だから朋美のことは放っといて。」

「わかればいいんだよ。早く、そうしておけばよかったんだ。」


朋美の姿で、声で、朋美が言うはずもないことを聞いて吐き気がした。

でも、ここまで朋美のことを分かっているなら、当然、会っているはず。

いつでも、朋美を殺せる所にいるということね。


朋美とは別人だと頭ではわかっていたのよ。

でも、朋美の姿を目の前にして、朋美との楽しかった日々のことを思い出していた。


私から雪が清らかだっていう気持ちを奪った組織は許せない。

でも、朋美がなにもなく今後も無事に過ごせることに勝るものはないわね。

私は堀を埋められて、チェックメイトとなってしまったんだと思う。


そして、しばらくは、クラブ「フルムーン」でのホステスを続けた。

政治家とか、各界のリーダーから情報を収集する役割を。

それに加え、昼は一般企業の社長秘書をすることになった。

その社長が超能力者の一掃に重要な役割を持っているらしい。


でも、それぐらいで、朋美に被害が及ばないならいいわ。

私の愛した朋美、これからも幸せに過ごしてね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る