第4章 超能力発現の仕組み

1話 脳内の線虫

「これは、ひどい。脳内に、これほどの虫がいるとは。」


交通事故で頭を打ち、脳内で出血した血を取り除く手術中だった。

血とともに出てきたのは、体長3mほどの20匹の線虫。

赤色で細長いうごめく紐のような虫がそこにいた。


「人間の脳内に線虫がいたというケースはあるにはあるが、主に後進国だし、生肉をずっと食べていたとか、野生の爬虫類から感染するようなケースがほとんどだ。でも、この女子高生がそんなもの食べたり、そんな環境で過ごしているようには見えない。それなのに、どういうことだろうか。」

「痛い。手で触ったら、こんなに小さいのに、ゴム手袋を破って噛まれたみたいだ。なんだ、この生き物は?」

「まずは、この線虫を保存して調べてみましょう。先生。」

「そうだな。また、この女子高生に、記憶障害とか、何か症状がなかったか家族にも聞いてみてくれ。」

「わかりました。」


ご家族に聞いた所、ここ1年ぐらい、特に不自然な様子はなかったという。

一般的に脳内に寄生虫とかいると、記憶障害や体調異常となるはずだが。

どうして、この子は普通に暮らしてこれたのだろうか。


どこで線虫が脳に紛れ込んだのだろうか。

この女子高生は、ここ数年で、海外や、海、山に行ったことはないと聞いた。

何か異常なものに触れた形跡もない。


線虫は専門の研究所に送られた。

そこでの調査では、現在、認識されている線虫のいずれにも該当しないという。

それ以上に、線虫は、通常、単純構造だが、ムカデ以上に複雑な構造だったというのだ。


伸び縮みする触角があり、脳内で、アブのように、触角の先の歯で噛みつき血を吸う。

その時に麻酔のような液を出し、人は痛みは感じないという。


一見したときにはザラザラという程度であったが、調べると、無数の足がある。

その足は、最初見たときは短かったが、伸び縮みすることがわかった。

そして、その足の先にはトゲがあり、複雑に動くことができる。


更に目に相当する器官もあり、超音波を出して、真っ暗でも、自分の位置が分かる。

小さいが、かなり高度な生き物だ。


繁殖力はそれほどではなく、長期間、人間と共生できるらしい。

いつから、この子に寄生していたのだろうか。


更に、その1匹を殺そうとしたが、300℃以上の熱では殺傷できなかった。

逆に -120℃に冷却すると、動きは止まったが、温度が戻ると再び動き出す。

体皮は柔軟で、針で刺し、中の養分等を吸い出すことができない。

ホルマリンの中で血を与えなかったら、動きは止まったが、殺すことはできなかった。


何なのだろうか?

脳内からこの線虫を取り除くことはできない。

一旦、すべて取り除いても、どこからかまたわいてくるのだ。


そういえば、この女子高生、友達に超能力とか言っていたようだ。

超能力、なんのことだろうか。

脳内の線虫と関係があるのだろうか。


窓から外に目をやると、熱い夏の日で、目の前の空気は揺らいでいる。

そんな中でも、私は、恐ろしさで寒気を感じていた。

暗闇に押しつぶされそうだ。


もしかしたら、未知の感染症で、これから大勢の人に発症するかもしれない。

1人の脳外科医が抱えておける問題じゃない。


厚労省に報告するしかない。ただ、誰に報告すればいいのだろうか。

広いリレーションを持つ三木建設の河田常務に相談してみよう。


河田さんは、大学時代の友人から紹介され、最近、私のところに頻繁に来ている。

ただ、来ても、いつも意味がない雑談だけするだけで、何が目的なのかはよくわからない。

だが、彼の広いリレーションは使えそうだ。


「河田さん、これは恐ろしい事実です。もう、私だけで隠しておかないで、日本又は全世界一体として研究を進めないと、大変なことになるんじゃないかと心配です。明日にでも、厚生省に研究結果を報告したいのですが、誰にアクセスしたらいいでしょうか。」

「もう少し、先生が研究を進めたほうがいいじゃないですか。」

「私も、これまでそう考えてきたんですが、もう限界です。河田さんはいろいろな人をご存知なので、厚生省で誰に報告したらいいか教えてもらえますか。」

「そこまでおっしゃるなら止められないですね。報告先ですが、厚生省の生活衛生局の宮崎局長がいいと思います。私から先生が明日14時に、訪問されると宮崎局長に伝えておきます。霞が関の中央合同庁舎5号館の1Fに受付があるので、先生のお名前と、宮崎局長にアポを入れていることをお伝えすれば入れます。」

「ありがとうございます。私は1医師だから、日々、手術ばかりで、厚生省についてはあまり詳しくないので助かります。では、明日14時に宮崎局長に訪問させていただきます。」

「いえいえ、日本のためですから。先生の日々の絶え間ない探究心には頭が下がります。」


翌日昼に、私は、霞が関に向った。

そして、霞が関の駅から、道路に出たときだった。

暴走した車が私に突進してきて、目の前は暗くなっていった。

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