5話 予知夢

私は、死んだ子供の父親の夢でうなされていることを親に伝えた。

そして、あの子のお父さんが今どうしているか聞いたわ。

子供を生んだすぐ後に、事故で死んだって。


知っていたんだったら、教えてくれればいいのに。

でも、親も、死んだ理由は分からないらしい。


でも、どうして、あの人が夢にでてくるのだろう。

私があの人を殺したわけでもないのに。

ただ、その頃から、私の体に何か変化が起きていることに気づいたの。

最初はよくわからなかったけど、日が経つうちになんとなく分かってきた。


それは、将来のことが予知できるようになったんじゃないかということ。

最初は、私の前に、公園で遊んでる子どもたちのボールが飛んでくることから始まったの。昨晩、そんな夢を見たなと思って公園をみたら、夢のとおりボールが飛んできた。


偶然だと思ったけど、そんなことが続いたので、これは偶然じゃないと思った。

例えば、お父さんの会社が、新しい特許で株価が急激に上昇する夢とか。

だいたい、お父さんの会社で新たな特許を取得したことなんて知らなかったし。

株なんて興味もなかったけど、夢で見たとおりの株価が新聞に載っていた。


ここまでくると、単なる夢とか言っていられない。

この力は、妊娠したあたりから、だんだん身についたものじゃないかと思う。


その頃、私が唯一付き合っている女友達の凛から連絡があり、久しぶりに会ったの。

凛とは、ここ3年ぐらいのお付き合いだけど、容姿は全く変わらない。

ずっと、20歳ぐらいの若い女性の肌と美貌を維持し続けている。


「凛、今更だけど、いつ見ても美しいわね。肌なんて20歳のようだし。」

「ありがとう。実は、今日は別の用事で会いに来たの。」

「かしこまって、何なの? 怖いじゃない。」

「美智子は、特殊な能力を持っているわよね。」

「どういうこと?」

「私達の情報では、予知夢をみる能力を持っているでしょう。」

「どうして知っているの?」

「私も、美智子と同じで超能力を持っているから。誤解されたくないけど、一番初めに美智子に近づいたのは、超能力を持つ人達で作った組織の命令だったから。私も、その組織の一員で、あなたのお子さんも、その組織で活動しているの。」

「え、あの子は生きているの?」

「ええ。組織に参加してもらえれば、今はアメリカの研究所にいるので、すぐにはとは言えないけど、会えるようにできると思うわ。」


私は、想定もしていなかったことを聞かされ、呆然とその場で立ちつくした。


「どう? 私達の組織に参加しない?」

「参加すると、どうなるの?」

「そもそも、普通の人からみると、私達のように超能力を持つ人は脅威なの。だから、今、私達を排除しようという動きが強まっている。それに対抗するために、私達は結束しなければいけないのよ。自分たちを守るために。そんな中で、年に1〜2回ぐらい、自分にできることをする。そのぐらいかな。美智子には、予知夢で私達の行動の結果を見てもらい、私達の意図に反するなら、計画を見直すなんて感じだと思うよ。」

「そうなんだ。で、参加しないと言ったらどうするの?」

「私は、そんなことしたくないんだけど、美智子は組織から消される。しかも、断ったら、お子さんとも会うことはできなくなるし、政府からも狙われ、組織は助けてくれないんだから、答えは1つでしょう。」


もう断るという選択肢はなかった。

参加するというと、凛は去っていった。


それからしばらくして、陽稀が私に別れを告げる夢を見たの。

それは、いくらなんでも間違いでしょう。だって、陽稀とは、今でも仲がいいし。

でも、その3日後、陽稀から私に別れたいと言い出したの。


私の親から、酔っ払った席で私は以前、子供を産んでいたと聞いたらしい。

しかも、私は、変な能力まであって汚れている。

そんな私は、陽稀に私を選んでなんて言えなかった。

私は、そんなことを伝えてしまった親を憎み、その翌日、朝起きたら目が腫れていたわ。


もう終わりなのね。私は、眼の前が真っ暗となり、もう生きる気力がなくなっていた。

そんな弱気になっている時に、ふと、あの悪夢のことを思い出していた。

そういえば、あれも予知夢だったの?


これは、私の心、考えていることを反映しているんじゃない。

将来、私が殺されるということの予知なんじゃないかって。

そうは言っても、あの人はすでに死んでいる。


でも、ある日、私はびっくりして、その場で凍りついた。

腕や膝、足の裏に、夢で見たようなガラスで切ったような傷が多数あったから。

いつ、怪我したんだろう。全く記憶はないのに。


でも、これって、あの夢の怪我に似てない?

そう思っている間に、背中が腫れてきた。そう、包丁で切り裂いたように。

私は、激痛に苦しみながらも、凛に聞いてみた。


そうしたら、凛は、前から分かっていたように冷静に私の話し始めたの。

これは最初の症状にすぎずに、これを契機に、だんだん私の体が溶けていくんだって。

どうしてわかるのと聞いたら、私の子供がそうだったからと言われた。

そう、私の子供は、もう亡くなっているということだった。


凛が話したとおり、私は、半年で、足と手が溶けてなくなった。

状況は違ったけど、私の体はあの夢の通り傷ついていったの。

あの人が私の体に遺伝子を移し、私の体は逃げ回ったけど、最後は死に至る。

夢の通りだったのね。


凛は、美智子の墓の前でお花を供え、小声で話しかけていた。


「私は、美智子に組織への参加をお願いしたけど、美智子に近づいた目的はそれだけじゃなかった。あなたの症状を調べ、組織に伝えること。美智子は、薬を飲んだわけじゃない。超能力を持つ男性から精子を受け取り、受精し、子供を産んだだけ。そんな女性も、超能力が持てるのか、その後、子供も含めて、どうなるのかを調べろと指示されて、美智子に近づいたの。本当のことをいえば、美智子とは、あまり親しくなりたくなかった。だって、組織の研究チームでは、今回の結末は想定できていたんだもの。それを言えなくて、ごめんなさい。未来にいつも希望をもって輝いていた美智子には言えなかった。今回の結果は、本当に残念。まだ、私達の研究が十分じゃないの。もっと、研究が進んでいれば、美智子も、その子も救えたかもしれない。許してね。ゆっくり、おやすみなさい。」


凛は、長い黒い髪をたなびかせ、墓地の階段をゆっくり降りていった。

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