宙を舞う女の裸体

４話 奇妙な子供

私には、誰にも言えないことがある。

昔付き合っていた人との間にできた奇妙な子供のこと。

妊娠３ヶ月ぐらいまでは普通だったんだけど、その頃から急激にお腹が大きくなったの。

そして、４ヶ月目にはもう臨月と言われ、密かに産んだ。

私はショックだったわ。だって、こんなに急激に成長するなんて、普通の子供じゃない。

しかも、家に帰ると、彼は親から追い出されていた。

妊娠３ヶ月目から、急激にお腹が大きくなったけど、その１ヶ月はつわりがひどかった。

というより、ほとんど吐き気がして、寝ることもできなかった。

だから、鎮痛剤と吐き気止めを点滴から入れて、強制的に寝ていたという感じだった。

妊娠３ヶ月目から２日経ったとき、もう、お腹では中から蹴るような感触があったの。

そして、なぜか、お腹はだんだん、黄色で透明になった。

そして、お腹の中の赤ちゃんが見えるようになっていった。

その時、気のせいかと思うんだけど、不思議なことが起こっていた。

赤ちゃんから、おかあさんって声が聞こえるような気がしたの。

つわりとかで苦しかったけど、自分としては、赤ちゃんと話している気でいた。

看護師さんに、そんな話をすると、気のせいですよと言われたの。

そうかなとも思ったけど、赤ちゃんとは、いろいろな話しをした。

私からは、お父さんはどんな人で、私はこんな生活をしてきたとか、いろいろ話した。

こんな人に育って欲しいと伝えたら、がんばると言ってくれた。

また、お腹で育ててくれて、ありがとうとも言っていた。

これは、気のせいというよりは、現実なんだと思うしかない感覚だったの。

たぶん、母と子の間には、外からは分からないコミュニケーションがあるのよ。

その形態は人によって違うのだと勝手に考えていた。

透き通るお腹で男の子だと分かって、自分を支えてくれる我が子を想像して耐えていた。

そして、どんどんお腹が重くなってきたわ。

透き通るお腹から見える子供は、尻尾があってトカゲのような形。

胎児も尻尾やエラがあって、だんだん消えていくらしいわね。

稀に尻尾がついて生まれる子供もいるとか。だから、異常でもないかも。

出産予定日が近づくにつれて、１人で立ち上がって歩くことはできなくなっていた。

どうして、こんなに重いの？　私は、どんどん衰弱していったの。

でも、我が子のためと耐えていたわ。

そろそろ出産という時に、普通分娩は無理と言われ、帝王切開をすることになった。

しかも、局部麻酔ではなく全身麻酔で手術を行うんだって。

全身麻酔にすると子供にも影響すると知り、先生にも相談したのよ。

でも、このケースでは局所麻酔では出産はできないということだったの。

そして、手術当日、全身麻酔から起きた私は、死産だったと聞かされ、大声で泣いた。

でも、実は、その子は超能力を研究している機関に送られていた。

そんなことを知らない私は、お腹の傷をさすり、死んでしまった我が子にお詫びした。

あの子のお父さんとは連絡が取れなくなり、その後、どうなったかは分からない。

私は、戸籍には記録されていないけど、本当は未亡人。

もう、愛される資格なんてないのよ。

これから普通の恋なんてできないと思っていた。陽稀と会うまでは。

こんな汚れた私からみた陽稀は、手の届く人ではなかったの。

だから、いつも、笑顔で、どんなことがあっても受け入れてきた。

そして、あり得ないと思っていたのに、陽稀と付き合うことができたの。

私も、普通の人に戻れた気がした。

陽稀は、私のことが好きなはずなのに、近寄ってこないのは普通とは少し違っていた。

手も握らないし、キスもしてきてくれない。

でも、こんな汚れた私にとって、そんなことは些細なこと。

一緒に話していると、明るい未来に向かってがんばっていくと語っている。

そんな夢を語る陽稀は私にとって輝いていた。

でも、しばらくしたら、それも卒業して、１つになれた。

本当に嬉しかったわ。私は、汚れた女性から、普通の女性になるの。陽稀と一緒に。

その頃、道で会った女性と仲良くなり、時々、一緒に喫茶店とか行くようになったの。

名前は、鷺ノ宮 凛というきれいな女性。

陽稀は、悪夢のこと、あまり聞いてくれなかったけど、凛はうなづいて聞いてくれた。

どういうことなのかしらって、いつも心配そうに聞いてくれた。

また、陽稀に抱きしめられて１つになったことも話した。

おめでとうと祝ってくれたわ。

いつも、私を慰め、応援してくれる。

とっても、いい女友達。

ただ、いつも、私の話しばかりで凛のことはあまり知らない。

自分のことはあまり話したくないタイプなんだと思う。

ただ、昔、由緒正しい家系の人とか言っていた記憶もある。

凛は大切な友達だけど、所詮、女友達。

今、私に大切なのは陽稀だけ。

だから、女友達とは深入りせずに、時々会うぐらいの関係がいい。

それよりも、陽稀が好き。陽稀が一番。

陽稀が私をみると、その日はずっと幸せ。

これから、ずっと、私を支えてね。

しばらくは幸せの日々が続いた。

でも、そのうちに、悪夢にうなされる日々が訪れたの。

そして、ある日、やっと、私のことを刺した男性の顔をみることができた。

それは、あの子の父親だったの。