2話 アメリカ副大統領の失脚

私は、昨日聞いた内容を組織に伝えた。

組織は私に迷惑がかからないように進めると言っていたわ。

これからどうなるんだろう。


私はこのことは忘れることにした。

副大統領のことは、誰にも、何も言っていない。

もし、何かあれば、横のお客が盗み聞きしていたことにすればいい。


それから1ヶ月後、アメリカでは大騒ぎとなっていたと聞いた。

クリス人協会の不正が大々的に報道されていたらしい。

でも内容は、私が話した内容ではなかったの。


クリス人協会が連邦下院の議員に賄賂を送ったというものだった。

その事件を皮切りに、いくつもの不正も見つかったと聞いている。

また、協会メンバーのセクハラ疑惑も出てきた。

それは協会の会長の辞職、そして逮捕にまで及んだの。


でも、私は、ほっとしていた。

スミス副大統領のお金は話題になっていなかったから。

でも、それは甘かったかもしれない。


それから半月後、連邦議会議長の不正も騒がれ始めたの。

造船企業から賄賂をもらっているって。

トップ3の造船会社の社長も捕まる大事件となっていたわ。


その頃、スミス副大統領が私のお店にやってきたの。


「副大統領、最近、来てくれなくて寂しかったわ。今日は、来てくれて嬉しい。」

「そんなこと言うなよ。アメリカもきな臭くて、なかなか日本に来れなかったんだ。でも、凛に会いたかったよ。凛はいつも若々しくて美しいな。美魔女なんて言われるだろう。」

「副大統領、お上手なんだから。」

「いや、本当に若々しい。生命に溢れているって感じだな。凛、ありメリカに来ないか? 凛が生活するのに十分なお金は用意するぞ。」

「副大統領は、お疲れのご様子ね。私は、日本が好きですし、日本でないと生きていけませんから。その話しは置いておいて、まずは、いつもの飲んで、くつろいでくださいよ。」

「そうか残念だな。最近、いろいろとごたごたが多いじゃないか。その調整で疲れているんだよ。凛に優しくしてほしいな。凛も一緒に飲もう。」

「なんでも、相談してくださいよ。では、私もいただきます。乾杯。でも、クリス人協会も連邦議会議長も、逮捕されちゃんなんてびっくりです。」

「そうなんだよ。不用心なやつが多くて困るよ。」


副大統領は、不正が多くて、一つひとつのことを覚えていないのかしら。

それとも、知らないフリをしているのかしら。

クリス人協会のことも連邦議会議長のことも、自分には関係ないという顔をしていた。


1時間ぐらい経った頃かしら、私達は、大笑いをしていた。

副大統領も、いつになく酔っ払っているように見えたし。


「今日は愉快だ。最近、本当に脇が甘いやつばかりで困っていたんだ。この前は、海外視察用として若手議員に300万円渡したら、ベトナムで女性暴行事件を起こしたんだよ。裏で手を回してなんとかもみ消したけど、もう少し、目立たないようにして欲しいよな。その金は表に出せないお金なんだから。」

「とんでもない人ですね。除名とかしないんですか?」

「いや、除名するにも理由がいるだろう。公にできないんだよ。凛も、黙っていてね。」

「他の人になんか言いませんよ。」

「それでね、去年起こったハワイ沖大地震だけど、その復旧対策委員長が寄付金をくすねていたんだよ。もう、政治家に清廉という文字はないのかね。まあ、私も、そんなこと言える立場じゃないが。」

「副大統領は立派ですって。いつも、憧れています。」

「凛だけだよ。そんなこと言ってくれるの。今日は、まだまだ飲もう。」

「嬉しい。副大統領も大変なんですね。」


副大統領は、それからも5人の不正について細やかに愚痴っていた。

私は、また、その情報を組織に伝える。

悪いのは私じゃない。口が軽い副大統領が悪いの。


でも、副大統領は、そんなことは微塵も考えていない顔をしていた。

あいかわらず、私の胸を指で突っついたり、酔って子どものようにはしゃいでいた。

そして、また来るからと言って大勢の警備の人に守られ帰っていった。

警備の人でも守れないものがあるって知らないように。


それから、また、同じように1ヶ月に1人ぐらいのペースで不正事件が報道された。

私が話した人たちについて。


そして、最後に、副大統領がニュースに登場したの。

これまで不正をしたと報道された人たちの裏で金を工面していたと。

というより、これらの人たちを使って策略を巡らしていたと。


これまで、副大統領を逮捕するために、周到な情報収集をしていたのね。

1人の不正ではもみ消される。

だから、多くの人達を逮捕し、証言を集めていたんだと思う。


副大統領は私から情報が漏れたなんて思ってないと思う。

いずれも、逮捕された人たちが証言したと報道されている。


誰も、こんな小娘がアメリカの政治と裏で繋がってるなんて思わないでしょう。

ここにいるホステス達は、みんな、こんなことをやっているのかしら。

そうだとすれば、ここは世界で陰謀が飛び交う中心ね。

笑っちゃう。


でも、巻き込まれないように、気をつけないと。

世界のトップを蹴落とすための策略が渦巻く。

政治はどす黒い世界。

私は、日本のクラブ「フルムーン」でアメリカ人VIP対応、情報収集を続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る