3話 組織

まだ戦後の復旧は進んでいない目黒。

私の気持ちは真っ暗だった。

だって、私は普通の人と違って死なない化け物。


歳だって、本当なら31歳なのに20歳にしかみえない。

そんなことを横の人が知ったら、恐怖で逃げ出すわよね。

化け物に殺されるって。


望んでこの体になったわけじゃないのに。

そんな気持ちで目黒の街を歩いている時、男性が私の前に立ち塞がった。


「鷺ノ宮さん、少しお話しがあるのですが。お時間をいただきたい。」

「どなたでしょうか。急いでいるので、すみません。」

「申し訳ないのですが、そういう訳にもいかないので、お時間をいただきます。鷺ノ宮さんが歳を取らないという件についてです。」

「なんのことなんですか? そんな奇妙な話し、こんな所で言わないでください。」

「とぼけないでください。私も別の超能力を持っている者です。実は、そのような人達が組織を作っていて、鷺ノ宮さんにも参加してもらいたいんです。」

「超能力?」

「普通の人間にはない能力のことです。普通の人は歳をとるでしょう。そのような能力のことですよ。」

「他の方は、どんな超能力を持っているというのですか?」

「人それぞれです。時間を飛び越えられる能力とか、容姿を変えられる能力とか、いろいろあります。私は、人に触れると、その人が考えていることがわかる能力を持っています。以前、鷺ノ宮さんのおじい様は私からあなたの飲んだ薬を買い、その時に、手に触れたのでお考えは分かりました。あなただけが生き残って、それから、ずっとあなたを見てきました。だから、あなたの超能力もわかってます。」


かなり私のことは知られているみたいね。

もう、この人には隠しておけないみたい。


見た目は、復員服を着て、40歳ぐらいの男性。

目線は厳しくて、目を見ているだけで、なにか闇に引き込まれそう。

口元には、どこにも、逃げ込める余地はない。


声は低く、語調は強い。

柔道でもやっているのかしら。食料不足の中でも筋肉は引き締まっていそう。

断れば、路地に連れ込まれて、暴力を受けるのかもしれない。


「超能力の組織って、どのぐらいの規模なんですか?」

「やっと信じてもらえたようですね。組織は、全世界にあって、例えば、アメリカには約50名、日本には23名います。」

「で、断ると、どうなるの?」

「断れば、我々の組織の情報が漏れないように、死んでもらうしかありません。ただ、あなたは死なないので、火が燃え盛る製鉄所の溶鉱炉に閉じ込めるとか、なにか考えないとだめですね。」

「わかりました。本当かは疑問もありますが、私のことを知っているということは嘘でもないのでしょう。ところで、前から疑問だったのですけど、家族全員が同じ薬を飲んで死んだのに、どうして私だけが助かったのかはご存じなのですか?」

「それは、まだ分かってません。薬によって、どうして超能力を身につけられるのか、多くの人は薬を飲むと死んでしまうのですが、死なない人もいるのはなぜか、今、研究しているところなんですよ。」

「そうなんですね。それで、私は、組織に入って何を期待されているんでしょうか?」

「今すぐに、何をしてもらいたいということはありません。ただ、私達は、圧倒的に少数派で、超能力を持っていることがバレれば、普通の人間は、恐怖感を抱き、我々を排除しようとするでしょう。その意味で、我々は結束して自らを守らなければならない。そのために、今後、お願いすることがあるのです。」

「まだ、わからないことばかりですが、組織に参加することにします。具体的には、必要な時に連絡があるということですね。お待ちしています。」

「そういえば、鷺ノ宮さんは歳を取らないということで、いろいろとご不便があるかと思います。例えば、戸籍上の年齢とか。このあたりは、組織で支援させてもらいます。そういう相互援助的な活動も多いのです。」

「そうなんですね。それは助かります。」


目の前の男性は、ほっとしたのか、顔には笑顔もみえた。

私が同意しなければ、私を殺すよう指示を受けていたんだから。

女性が息ができずに苦しみ、死ぬ姿を頭に浮かべていたんだと思う。

私は死なないからといって、本当に製鉄所の溶鉱炉に入れるかはわからないけど。


私は、目黒川にまで降りてきた。

川べりにはバラックのような家が並び、すぐ横に川が流れる。

道路から3段ぐらい階段を降りると乗れる船も見える。


川沿いにある家の庭には桜がところどころ植えられ、咲き始めていた。

東京の街は空襲であいかわらず荒廃している。

でも、自然は、そんなことは関係なく、新しい命を育んでいくのね。


こんな風に、日本も復興し、昔のように栄えていくのね。

そして、私にも仲間がいることがわかった。

自分にも明るい将来が待っていると久しぶりに笑顔になれた。


小川のせせらぎが心地よい。

まだ朝晩は肌寒いけれど、お昼は、陽の光で暖かみを感じられる。

そんな気持ちで空を見上げた。


敗戦後の東京は混乱していて、働ける仕事が見つからず、少し暗くなっていた。

でも、私には組織がある。組織に相談してみよう。

陽の光を浴びて、明るい気持ちで前に進んだ。

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