2話 はじまり
私は、華族の一員として1915年に生まれた。
関東大震災で家族を大勢亡くしたからなのかしら。
私が20歳になった時、家族全員が集められて、おじい様が語り始めた。
「人間は、生に執着する生き物だが、それは恥ずかしいことではない。そこで、私が持っている財産の半分をつぎ込み、永遠に死なない薬を手に入れることができた。今日は、一族が永遠に発展することを願って、みんなで、それを飲むことにする。皆の前に薬が一錠、置いてあるだろう。お茶とともに、飲んでくれ。」
この言葉を契機に、周りの人達は次々と薬を飲み始めた。
どうして、こんな信じられない話しなのに、誰も何も聞かないの。
でも、私には飲まないという選択肢はなかった。
薬を飲んで5分ぐらい経ったころだったかしら。
みんなは苦しみ始め、血を吐いて死んでいくじゃないの。
その時の恐怖は今でも忘れられない。
次に死ぬのは私だと確信していた。
でも、15分が経ったころ、私だけが、何もなく座り続けていたの。
警察は、私を容疑者として捜査を始めたけど、すぐに捜査は打ち切られたの。
「あの女を釈放するんですか?」
「主人の遺書が出てきたんだよ。華族としての栄光が失われ、一家心中をするってね。」
「そうなんですか。でも、どうしてあの女だけ助かったんでしょうかね?」
「怖くなって薬を飲めなかったんだろうさ。」
薬が私のものだけ違ったのではないかと疑ったこともある。
でも、そうでないことが数年経ってわかってきた。
私は、怪我も病気もしない。
道で転んでも、痛いけど、傷ができたり、血が出たりはしない。
というより、傷ができても、あっという間に元通りに戻ってしまう。
周りで感染症が流行ってもかかる気配はない。
そして、薬を飲んでから10年も経つのに、見た目は全く変わらない。
周りからは、いつまでもお若いお嬢様と不思議がられる、そんな日々が続いたわ。
周りは、化け物を見るような目に変わっていった。
ただ、日本は戦争に進み、私のことを気にする余裕もなくなっていった。
そして、東京大空襲で一面、瓦礫の山の東京で、私は佇んでいる。
こんな時でも陽は昇る。
あちこちで煙が見えるけど、建物が一つもない中で見た朝日は美しかったわ。
まだ3月の寒い東京で震えながら、私は、朝日を見つめていた。
でも、死ねないんだから、綺麗事だけでは生きていけないわね。
みんな焼けてしまい、お金もなくなってしまった。
これから何か仕事をしてお金を稼がなくてはならないわ。
でも、こんな荒野で仕事なんてあるのかしら。
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