第6話 怖すぎる転生王の逆襲


「所長は、『タコ部屋』に親でも殺されたのですか?」


私の渾身の力作、『怖すぎるシアターの灯り』を読んだ篠織の開口一番がこれだった。


「それは『評価』か?」


薄暗く寒い地下室で、二人の男がデスクを挟み、面と向かって互いに貧乏ゆすりをしている。

椅子の軋む音が、虚しく部屋に響く。


篠織は、本日すでに3本目のタバコに火をつけようとしていた。


「所長がね、『ZT-KLS666』を物語に登場させないと死ぬ病気なのは、なんとなく察しました。

 だから今回もね、どうせ『来るな』と思って読んでいたんです。

 ……それで言うとね、今回は割と期待できたんですよ。実際、出てきた瞬間ちょっと、『お? 今回は?』と期待した自分がいました」


「では何が不満なんだ」


「『タコ部屋』です!! なんで出した!?

  平和な日常に突然理不尽な『異質』が紛れ込んでくる! ここまでは賛成できます!

 なのになんで『タコ部屋』なんか出しちゃうんですか!?」


「もうその論争は終わっただろう! タコ部屋を怖いと思えないのは、篠織の想像力の欠如じゃないのか!?」


「いっそ目から殺人光線でも撃ってくれた方がまだよかったですよ!」


篠織にそう言われ、私は寂しい気持ちになった。なんというか、

何気なく歩いていた道が、踏み荒らしてはならない花壇の中だったと気づいた時のような、そのような寂しさだった。


「篠織……それは、ただのホラーじゃないか」


「所長のは、ホラーですらないと、散々言っているのです!」


重たい沈黙が、我々を包んでいた。我々が手を伸ばした先に、我々が求めるものが無いと、気付かされたようだった。


「わからない……『あたらしいホラー』とは何なのだ……」


篠織は、『怖すぎるシアターの灯り』に目を通し、


「いや……これは新しいかもしれませんよ?」


4本目のタバコの煙に塗れて口にした。


「導入は違うもの。……そこに唐突に襲いくる『ホラー』

 これです!! 所長! この緩急ですよ!!」


「何!?」


「所長! いっそ 『異世界転生もの』を書きましょう! それも王道の『異世界転生』です! 

 そこで、読者は『これはよくある異世界転生モノだな』と思わせておくんです!」


「おう!」


「そこに、唐突に『爆薬』を投入します!! ZT-KLS666という爆薬です!! これなら新しいホラーが出来上がります!」


「おお!」


「舞台は組めました! あとあどれだけ読者を恐怖に落とし込めるかは所長次第です!! ただし、一つだけ条件があります」


「なんだ!?」


「『タコ部屋』だけは、嫌ですよ。所長」


「よし! 任せておけ!!」


私は立ち上がり、篠織に意味もなくビンタを食らわせてから地下室を後にした。

すでに私の頭の中には完璧な構想が思い浮かんでいた!

以下が私と篠織の集合知的、恐怖の集大成である!


精神に多大な影響を及ぼす可能性がありますので、閲覧の際は注意してください。



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『怖すぎる転生王の逆襲』



奴は一体何者だ!?


「奴……? 俺の事か? 俺は……」


佐藤隆也(さとう たかや)は27歳、平凡な会社員だった。日々の仕事に追われ、何の目標も見つけられず、毎晩ビール片手に自分の人生を嘆く日々。

そんな彼に、ある日突然、非情な運命が訪れる。
夜道を歩いていた隆也は、横断歩道を渡る際、不運にも暴走トラックに轢かれ、命を落としてしまったのだ。

目を覚ますと、そこは荘厳な神殿の中だった。周囲には神秘的な光が漂い、目の前には黄金の冠を戴いた美しい女神が立っている。

「佐藤隆也よ。そなたの死は偶然ではない。この世界、アルセリアに降り立ち、滅びの危機に瀕した我が国を救うのです。」

女神ベヒシュタインから授かった使命により、隆也は異世界アルセリアに転生することとなった。


転生と同時に、隆也は女神ベヒシュタインから祝福を受ける。

授かったスキルは『無限進化』――どんな能力でも使用するたびに進化し、永遠に強化されるという、まさに神のごとき力だ。

最初は魔力の使い方すら分からず、町の宿屋でバイトをして生計を立てていた隆也。

しかし、ある日、彼が街を襲った魔物、『オリュンポスの傀儡』を撃退したことで一躍有名になる。

オリュンポスの傀儡退治での「ファイアボール」は、スキルの進化により、次回には「メガファイアボール」、その後には「エクスプロージョン」へと進化していった。



アルセリアで名を上げ始めた隆也だが、順風満帆とはいかなかった。
彼が救った街で有力貴族の一人、ギルバート卿に目をつけられ、財産を奪われたうえ、濡れ衣を着せられて牢獄に送られる。

しかし、ここで隆也の『無限進化』が本領を発揮する。
牢獄の中で魔力の訓練を続けるうちに、彼のスキルは「反射結界」を生み出すまで進化。やがて牢を脱出し、ギルバート卿の屋敷へと乗り込む。

「俺を侮辱した代償、たっぷり払ってもらうぜ!」
隆也はスキルを駆使し、ギルバートの財産を奪い返し、彼の不正を暴くことでその地位を失墜させた。この一件により、「ざまぁ」展開が炸裂。街の人々からも英雄として認められる。


隆也が旅を続ける中で、数々の女性と出会う。

エリナ: 王国の女騎士。正義感が強く、隆也の実力に惹かれて同行を決意する。

ルナ: 山奥で出会った獣人族の少女。人間に迫害されていたが、隆也に救われたことをきっかけに彼を「ご主人様」と慕う。

セシリア: 教会の巫女。隆也のスキルに興味を持ち、彼の力を探求するために旅に加わる。

3人のヒロインが加わることで、彼の旅は賑やかさを増し、ハーレムパーティが結成される。



旅の果てに、隆也たちはアルセリアを滅亡させようとする「魔神ゼルガス」に立ち向かう。
ゼルガスは絶大な力を持つ敵で、歴代の英雄すら成し得なかった撃退を目指す。

だが、隆也の『無限進化』は、戦いの中でさらなる進化を遂げ、最終的に「神滅光輪」という最強スキルを手に入れる。

「これが俺の全力だ! 終わりだ、ゼルガス!」
隆也の一撃により魔神は消滅し、アルセリアは平和を取り戻した。


戦いの後、隆也は英雄として王都に迎えられ、国王から莫大な報酬と爵位を与えられる。

そして、エリナ、ルナ、セシリアという3人のヒロインのうち、

隆也が選んだヒロインこそ、どこかから突然現れた殺人サイボーグZT-KLS(絶対○ロス)666である!!

隆也は、異世界での生涯を全て、ZT -KLS666のために尽くさねばならなくなった!


いくら隆也が、ZT-KLS666の肩を揉もうが、腰をマッサージしようが、機械の体には何も通用しない!


「くそ!!俺は……なんて無力なんだ!!」


そして隆也がいくら手料理を振る舞おうが、サイボーグであるZT-KLS666は「アーモンドオイル」以外は受け付けない!


「ドウシタ、ソンナモノカ、人間」


「畜生!! こんなはずじゃなかったのに!! どうしてこうなったんだ!! 結婚がこんなに恐ろしいものなんて!!

 誰か助けてくれー!!」


異世界に、隆也の叫びがこだまする……

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