第3話 怖すぎる廃録の家


……


「どうだね。篠織研究助手」


私は、『怖すぎる封じられた森』と、『怖すぎる鬼門を開く十三の儀式』

という作品を、助手の篠織研究員に提出した。


篠織は、無糖の缶コーヒーと、タバコを片手に貧乏ゆすりをしながらその二作品に目を通していた。


「どう、と言われましてもね」


「イヤ、率直な意見をきているのだ。こんなホラー作品、読んだことあるか」


「ないですね」


「そこの所の、素直な感想を聞いているのだ」


「感想も何も……なんだろう。何も残らなかったですね」


「何も残らなかった?」


「冷蔵庫に長時間放置されて、黒く変色したニンジンあるじゃないですか。今、あんな気分です」


『あんな気分です』と言い切る間に、篠織は2本目のタバコに火をつけていた。相当苛立っているようだ。


「何やら不満げだな」


「不満……しかないですねー。所長の悪い所が全部出てるというか、そうですね。この2作品は所長そのものです」


「非難されているということは受け止めておこう。しかし、我々は同じ志の下に作品を作る約束をしただろう?

 つまり、『新しいホラーを生み出す』という」


「そうですよ? その話をしたときは確かに、私は、『良くぞ言ってくれた!』『所長について行ってよかった!』確かにそう思いました。」


「じゃあ何が不満なんだね」


「こういうことじゃないんですよ! 所長はこれを本当に『ホラー』だと思ってるのですか!?」


「ホラーだろう! 『緊張』のピークで『意味不明』な出来事が起きる! これがホラーでないならなんだというのだ!」


「それです!!」


篠織は、机を叩いた。


「その『緊張』のピークの部分で、台無しになってるんです!! それは登場人物が自分で言ってるじゃないですか!」


「わからんね。君が何を言いたいのかがわからん」


「まず、何でもかんでも雰囲気に頼ろうとするのが私は気に入りませんな。

 そこからなんとかするべきです。所長、一度、王道を振り返ってみてはいかがでしょう?」


「王道?」


「往年のホラーの人気作品、例えば、『リング』ですとか『呪怨』が挙げられますな。

 これらに共通しているのは、緊張と脱力の『緩急』です。『緩急』こそがホラーだと私は思います」


「なるほど……わかった。それで一本、描いてみようじゃないか!」



私が煙たい地下室を出ることには、篠織は4本目のタバコに火をつけていた。



私は苦悩し、『リング』と『呪怨シリーズ』を何周かして、ようやく一つの作品を書き上げた。

以下が私の作品である。 



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『怖すぎる廃録の家』

この家には、誰も住んではならない。
町外れにぽつんと建つその古い家は、今では「廃録の家」と呼ばれている。近所の住人によれば、かつてそこでは奇妙な儀式が行われていたという。


 ある日、友人たちとその家を訪れた男、杉田隆也が、家の中で1本の古いビデオテープを見つけた。
テープには「1977年 儀式記録」と書かれていた。古びた書斎の棚の奥から見つけたもので、埃をかぶり、テープのケースには爪で削られたような跡が残っている。

「古い映画かなんかじゃないか?」
友人の一人がそう言ったが、隆也はなぜかそのテープを再生してみたくてたまらなかった。


隆也は、半ば何かに取り憑かれたように、テープを再生した……


画面には、揺れるロウソクの火とともに、白い布で覆われた人影が映し出されていた。

影の周りには複数の人々がひざまずき、低い声で何かを唱えている。

儀式の様子だと思われたが、映像は不気味なほど静かで、音声がほとんど聞こえない。

映像の途中、カメラがゆっくりと参加者たちの顔を映し出す。

だが、その顔にはすべて、目や口の位置が黒く塗りつぶされていた。

やがて、白布をかぶった人影が動き出し、苦しそうに呻くような音が響いた瞬間、画面が真っ暗になった。




 その夜から、異変が起きた。
隆也は何者かの視線を常に感じるようになった。部屋の隅に立つ影、テレビ画面に映る自分の背後の白い布をまとった人影。

それらが一瞬見えたかと思えば消え、まるで幻覚のように感じたが、隆也の心には不安が広がった。

数日後、映像の中で映し出されていた家が、現在の「廃録の家」であることに気付いた隆也は、何かに突き動かされるように再びその家を訪れた。




 隆也は床下から聞こえるかすかな声に誘われ、地下室への隠し扉を見つけた。

地下には小さな部屋があり、壁には無数の爪痕が残っている。その中央には古びた祭壇があり、そこに血で書かれたような文字があった。

「二度と儀式を中断してはならない」

その瞬間、背後の扉が閉まり、外から鍵がかけられた。

暗闇の中、涼介は震えながらスマホのライトを頼りに周囲を照らしたが、壁に貼られた写真の中に自分の姿が映っていることに気付いた。




 やがて、再生したビデオテープの映像が真実を語り始める。それは単なる記録ではなく、儀式そのものだった。

映像を再生した者は、自動的に「次の生贄」に選ばれる仕組みであり、その呪いは家から逃れられないよう設計されていた。

地下室の中で、隆也のスマホが突然起動し、再びあの映像を流し始めた。今度の映像には、隆也自身が祭壇に連れて行かれる様子が映し出されていた。

画面越しに響く声――それは、儀式を中断しようとした過去の犠牲者たちの叫びだった。





 翌日、「廃録の家」を訪れた地元警察は、地下室で見つけた1本のビデオテープを証拠品として持ち帰った。

警察官の一人が「再生してみよう」と言い始めたその瞬間、別の警官がふと振り返った。



「おい、俺たち何人で入ってきた?」
「4人だろ。何だよ急に。」
「……いや、さっきから後ろにもう1人いる気がしてさ……。」

「え?……」


警官の一人が思わず振り向いた。


警官の背後には……




機械の体の上から筋肉質な肉襦袢を付けた殺人サイボーグ「ZTーKLS(絶対○ロス)666」が『ダブルバイセップス』のポーズで立っていた!


「わあ!! 『ZT-KLS666』だ!!」


「助けてくれ!! 殺される!!」


ZT-KLS666は、

「アイヤアアアア!!!」と奇声を発しながら警官たちにラリアットで突っ込んでいった。


その日、太陽は崩壊し、月は闇に呪われ、世界は滅んだ。

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